花岡は2004年にも『信時潔ピアノ曲全集』を出している。今回は信時を中心に彼に師事した5名の作曲家をまとめ、信時楽派(大中 恩)の一端が垣間見れる。信時の作品は、『全集』に入らなかった2曲を収録し、ほかの作品も非常に珍しいものだ。花岡の仕事は、丁寧で常に刺激的、目が離せない。★
1930年代後半にロシア人音楽家が収集・出版した日本・中国の情景を映した作品。ここに聴くその音楽は、いずれも短い時間の中に自然や街の風景、巷の風俗や祭りの情景が切り取られ、旋法的な音素材に複調などのモダンな意匠が施されて、俳句のごとく鮮やかにイメージが浮かび上がる。ピアノも叙情克明だ。
おもに1950年代から映画音楽に積極的に取り組んでいた作曲家5人の作品を取り上げている。今回もめったに聴くことのできない作品ばかりと言ってよく、花岡の慧眼に、そして演奏に感服する。中では斎藤高順の雄弁な作品と、芥川也寸志のシンプルで美しい作品がとても興味深かった。★
西欧技法を進取するモダニズムの動きの中で自らの“日本”とどう折り合いをつけてきたのか。和の音の様式から最も遠い舞曲、当然のように洋のカタチになるその隙間に和をいかに忍び込ませるか、その手並みに作曲家の創意が聴こえてくる。違う和洋が違うままに同居する松平作品が圧倒的に面白い。
西欧芸術音楽の技法を自らのものとすべく学び、体内に浸み込ませてきた受容の過程を、変奏曲という端的な形式を切り口に俯瞰。根っこの日本の生理とどう折り合わせるか、こすれ合いが音に現れる草創期の作品と、共にあるものとして混じりあう後年の作品。対置して照らす花岡の目とウデが適確。★
歌謡曲の豊かで確かなメロディを抽出していく花岡千春のピアノは、背筋が伸びた演奏で清々しく、曲への敬意というか愛情も感じられて心地良い。この2枚組アルバムは、クラシックのピアニストによる歌謡曲を演奏した作品の中でも秀逸だ。媚びることのない情感と音色の表情がいい。
第2次世界大戦前に書かれた8人の作曲家のピアノ・ソナチネを中心としたアルバム。ソナチネはいずれも10分足らずと小規模ながら、各人の個性が明確に刻印されており、花岡はニュートラルなスタンスで作品の本質を端的に示している。洋楽受容期の作曲家たちの足跡に光を当てた貴重な労作だ。★
20世紀前半に脚光を浴びた女流作曲家、タイユフェールの小品を集めた意欲的なアルバムだ。大ヴァイオリニスト、ジャック・ティボーとの恋愛でも知られる彼女の才能を示すピアノ曲。愛らしさの中に、ふと覗かせる燃える感性……激情の発露だったのだろうか。
武満徹の師としても知られる清瀬保二のピアノ独奏曲を、ほぼ網羅したアルバム。作曲家としてのギラギラした野心や、受け狙いの姿勢など微塵もなく、ひたすらシンプルでピュアな音楽が続く。それを優しく愛情込めてすくい取る花岡の演奏も魅力的。
以前『信時潔ピアノ曲全集』を発表した花岡千春が、その続編とも言うべきアルバムを録音。内容は信時の未出版作品、橋本國彦、畑中良輔の作品。西洋音楽の手法に日本人の感性を込め、シンプルに表現した愛すべき小品ばかり。共感あふれた優しい演奏。
タンスマン(1897〜1986)はパリで活躍したポーランド出身の作曲家。多岐にわたる種類の音楽を書いた人だが、ようやく近年その作品が知られるようになってきた。本盤には親しみやすい小品が59曲も入っている。実際に弾いてみたくなるような佳曲も多数。
名曲「海ゆかば」の作曲者として有名な信時潔だが、ピアノ曲も量産している。日本固有の素朴な素材や叙情を織り込み、ドイツ的な手堅い筆法のもとにまとめ上げた各曲は、古きよき日本の風景を呼び覚ます。花岡の高潔なピアニズムが実にしっくりくる。