ミニ・レビュー
米デビュー作。英語だから自然と書けて開ける別世界……それが、曲/サウンドと直結して想像よりもずっと強く大きく、“宇多田”の時とは別の輝きを放ってここに在る! 歌の感触もはっきり違い、ティンバランド作・制作(3)(13)もイーヴン。ブックレットの対談も読みごたえ大。
ガイドコメント
日本が誇るシンガー・ソングライター“Utada”の全米デビュー・アルバム。大物プロデューサー、ティンバランドらが参加した強力版だ。日本4週間先行発売。
収録曲
01オープニング
02デヴィル・インサイド
レッド・ツェッペリンの「移民の歌」を思わせるスピードあるタイトなビートのイントロから、艶のあるギター・リフに続き、絢爛な琴の音の打ち込みへと展開するさまは、異文化を旅する異邦人のような刹那の和を感じる。
03エキソドス'04
ティンバランドのプロデュース。のっけから胡弓風の哀愁漂うストリングスで、アジアン・テイストに染められる。米国人なりの日本のイメージで脚色したのか。が、振り回されずにしっとりと歌う姿は好感が持てる。
04ザ・ワークアウト
ボトムの効いたビートにノイジーな効果音や電子音が入り混じりつつも、R&B色の濃いメロディにリズムよく乗る勢いあるヴォーカルがクロス。人口と自然、享楽と現実の境を彷徨うようで刺激的なナンバーだ。
05イージー・ブリージー
“ニンテンドーDS”のCMでお馴染み。陽気で力みのない軽やかな声が映えるコーラスと、絞り出すかのような低音から導くヴァースとの対比が面白い。韻を踏んだり、“コンチニワサヨナラ”と歌う遊び心も。
06ティッピー・トウ
全体を通じて走るビープ音にも似た、くねったような人工音が、オリエンタルな諧調を紡いでいき、メイン・ストリームから少し外れた感じが、かえって耳に残る。急き立てるような歌唱が、妖しさを仄かに炙り出している。
07ホテル・ロビー
チキチキとした速いエレクトロニックな乾いたバック・サウンドに、人間の虚しさや儚さや脆さに苛まれているような湿度のあるコーラス。まるでホテルを行き交う失望寸前の女の心の機微を表わしているようだ。
08アニマート
陰影を多分に含んだメロディが日本的な情趣を感じさせるが、一貫したマーチング・バンド風のパーカッションのリズムが、心に秘めた強い意志をつまびらかにしていくよう。Utadaのポジティヴさが感じられる一曲。
09クロスオーヴァー・インタールード
タイトルどおり、1分ちょっとの間奏曲に、曲間の繋ぎと男女間の距離を縮めるという2つのクロスオーヴァーを求める一方、複数のチャートに登場する意の業界用語のクロスオーヴァーを揶揄していてシャレている。
10クレムリン・ダスク
遠い過去から現在へと伝統を紡ぎ、エキゾティックな趣を漂わせるナンバー。はるか彼方へ馳せる想いが届くようにと、次第にテンポ・アップして昂ぶっていくヴォーカルは、耽美で物悲しくもある。
11ユー・メイク・ミー・ウォント・トゥ・ビー・ア・マン
爪弾きだされる弦の音の揺らぎに、潜めていた心がかりな感情が引っ張り出されるよう。そのフレーズのループに、艶めかしいコーラスと切迫感あるビートが追いかけてきて、本音を曝け出したい気持ちを表現している。
12ワンダー・バウト
ファンキーなアクセントを用いながら、小気味いいテンポで歌をすべらせていくグルーヴ感が魅力。マイケル・ジャクソンが見え隠れするようなスピード感あるメリハリの効いた節回しが、心を捉えて離さないはずだ。
13レット・ミー・ギヴ・ユー・マイ・ラヴ
心の琴線に触れるような抑揚のあるメロディに、ブギー風の骨のあるファンク・サウンドが重なって、陰影に富んだ深みとコクが現れた。Utadaの繊細で腰があるも気が急くようなヴォーカルが活かされている。
14アバウト・ミー
アコースティック・ギターのフレーズで綴る前半と、打ち込みのビートがUtadaの変化に富んだ情感あふれるヴォーカルとマッチした後半、鍵盤の音に飾らずに歌うラストと、さまざまな彼女の色が感じられる曲。
仕様
日本盤スペシャル・パッケージスペシャル・ブックレット内容:ライナーノート対訳 (新谷洋子アニマートのみUtada対訳)Utada×新谷洋子対談対訳後記