ミニ・レビュー
元シンバルズ、個性的な声質を持つ、素養豊か(父親はサックス奏者の土岐英史)なシンガーのメジャー・デビュー盤。ソロ転向後、ジャジィな路線をとっていた彼女の完全ポップ盤で、今様なシュガーベイブとも言うべき手触りを持つものになっている。円満で弾んだ情緒に心踊る。
ガイドコメント
“土岐流シティ・ポップ”をコンセプトとした、メジャー・デビュー・アルバム。従来のスウィート・ジャズからソウル風のナンバーや昭和ジャズ風のものなどを、持ち前のキュートな歌声で表現している。
収録曲
01モンスターを飼い馴らせ
メジャー・レーベル移籍第1弾アルバム『TALKIN'』のオープナーは、土岐麻子のクール&スウィート・ヴォーカルだからこそ生まれた極上のシティ・ポップス。フュージョン・ソウルのグルーヴに乗って夜の道へ走り出せば、輝くイルミネーションの海が見えてくる。
02HOO-OON
作曲の西寺郷太とともにNONA REEVESのメンバーが全面参加した、珠玉のジャパニーズ・フリーソウル・チューン。土岐麻子のシルキーなヴォーカルとカラフルなリリックに、ファンキーなグルーヴがベスト・マッチしている。
03ファンタジア
郷愁を誘うエレクトリック・シタールの音色で始まる緩やかなミッド・バラード。土岐の羽毛のようなコーラスと柔らかなフリューゲル・ホーンが、しっとりとしたサウンドにファンタジックな彩りを添える。作・編曲は中島美嘉の「STARS」で知られる川口大輔。
04MY SUNNY RAINY
ジャズのテイストをふんだんにちりばめた、ミュージカル風のナンバー。編曲者のジャズ・ピアニスト、クリヤ・マコトを中心とした鉄壁のバッキングに、土岐麻子のキュートなヴォーカルが映える。小粋なメロディにぴったりハマった土岐のリリックにも注目。
05青空のかけら
斉藤由貴が86年にオリコン第1位を獲得したナンバーをファンキーにカヴァー。ラテン・フレイヴァのパーカッションとハンドクラップが、絶妙なスパイスになっている。土岐麻子の涼しげなヴォーカルの魅力が発揮された、秀逸のカヴァーだ。
06TALK SHOW
作・編曲・演奏をポストロック・バンドのtoeが担当した、アンビエント・テイストのミッド・ナンバー。ツイン・ギターを柱にしたサウンドは、水の中を泳ぐような独特の浮遊感を醸している。英語と日本語の音感や押韻を多用した土岐のリリック・センスが光る。
07眠れる森のただの女
エレクトリック・ピアノの優しい響きで始まるミッド・チューン。ゆったりしたリズムに乗せて目まぐるしく展開するメロディは、さながら深い森のよう。フリューゲル・ホーンのマットな音色と土岐麻子の透明な歌声が柔らかく溶け合い、甘いまどろみに導く。
08サーファー・ガール
荒れ狂う都会の海をくぐり抜けて、行け、サーファー・ガール。日々を戦う女の子たちへそっとエールを送る、フリー・ソウル・フレイヴァのミッド・ポップ・チューン。さざなみのように寄せては返すペダル・スティールの音色が切ない。
09WALK ON
ざっくりとしたアコースティック・ギターと微風のようなコーラス・ワークが爽やかな、ソフト・ロック・チューン。甘めのサウンドをブルース・ハープとパーカッションでピリリと引き締めている。英詞はグディングス・リナ、作曲は元Cymbalsの矢野博康。
10風とうわさ
オルゴールを模したアウト・チューン・ピアノと黄昏のようなギターが美しいララバイ。スロー・ワルツを歌う土岐麻子のヴォーカルは、泣きたくなるほどに優しい。作詞は元SUPERCARのいしわたり淳治、作曲はHALCALIなどを手掛ける田中ユウスケ。
11カモンナ・マイ・ハウス
江利チエミの代表曲「家へおいでよ」を土岐麻子ならではの解釈でカヴァー。チエミ版のモダン・ジャズと昭和歌謡の持ち味を活かしながら、ルンバ調のアレンジを取り入れたスウィンギーなグルーヴは、まさに粋のひと言だ。