ミニ・レビュー
打ち込みが目立ち、しかも全体の起伏がなだらかであるため、轟音&メリハリのスマパンに愛着のある耳には当初なじみにくかったが、無意識のうちに繰り返し聴いてしまい、結果、浸っているのは楽曲が充実しているのと中毒性が弱まっていない証拠か。★
ガイドコメント
大ヒットした『メロンコリー〜』から約3年ぶりとなる、98年発表のアルバム。ジミー・チェンバレン(ds)の脱退によりリズム・マシーンを導入して制作。ジョイ・ディヴィジョンのようなニューウェイヴの香りが漂う静謐なサウンドへと大転換した作品。
収録曲
01TO SHEILA
物憂げなギターのアルペジオに乗せて歌声がたゆたう、メロウなスロー・ナンバー。ほとんど弾き語りスタイルといえるシンプルな構成で、とことん無駄をはぎ取ったメロディと歌を聴かせてくれている。
02AVA ADORE
ダビーなビートをベースにした粘質なリズムとそれを切り裂くように差し込まれる鋭いギターが、絶妙のコントラストを見せている。また浮遊感のあるメロディとのバランスもスマパンの新境地ともいえるナンバーだ。
03PERFECT
ダンサブルなビートと乾いたメロディが融合した、爽やかなポップ・チューン。光をまぶしたようなきらびやかなギターと美麗なコーラス・ワークが、心地良い上昇感覚をともなって、鮮やかに未来を照らし出しているようだ。
04DAPHNE DESCENDS
ルーズなダンス・ビートとギターを融合させたダークな一曲。陰影のあるサウンドとそこから生み出される美しく甘いメロディには、ニュー・オーダーなどに代表される80年代ニューウェイヴ・バンドからの影響を強く感じられる。
05ONCE UPON A TIME
アコースティック・ギターとタンバリンによるリズムがメインとなったシンプルな一曲。アンプラグドのセッションと美麗なコーラス・ワークが、ドリーミーな世界へと誘ってくれる。
06TEAR
打ち込み音やストリングスを大胆にフィーチャーした、メランコリックなバラード・ナンバー。ダークでありながらも壮大で幻想的なサウンドに、魂を浄化されるよう。レディオヘッドにも通じるスケール感が魅力だ。
07CRESTFALLEN
電子ビートと鍵盤音とストリングスで構成されたアンビエント色の強い一曲。全体的にダークなサウンドだが、祈りを捧げるかのようなビリーの歌声が、闇の濃い音世界に一筋の光を投げかけている。
08APPELS + ORANJES
80年代風のディスコ・ビートにストリングスを融合させた、美麗なダンス・チューン。この手のサウンドの先駆者であり、本家でもあるニュー・オーダーに勝るとも劣らぬ甘さと切なさを体現した一曲だ。
09PUG
硬質な電子ビートに同調して鳴る警報音にも似たギターが印象的。緊張感の張りつめたAメロから開放感のあるサビへと移行する時のカタルシスが心地良い。透明感のあるビリーの歌声が曲の美しさをより引き立てている。
10THE TALE OF DUSTY AND PISTOL PETE
柔らかいビートとギターのアルペジオが絡み合う、爽やかなナンバー。透明感のあるメロディとヴォーカルがサビで高揚感を得てふわりと上昇するさまに、胸が透くような心地良さを味わうことができる。
11ANNIE - DOG
ピアノを全面的にフィーチャーした一曲。弾き語りスタイルのシンプルなメロディとウッド・ベースの野太い音、手数の少ないドラムのセッションが、ジャジィな感覚で、アダルトな雰囲気を醸し出している。
12SHAME
波紋が広がっていくようなズシリとしたビートと、物憂げなギターのアルペジオが全体を牽引していくメランコリックなナンバー。クリアな音世界の中で、苦痛を吐き出すようなビリーのヴォーカルが印象的。
13BEHOLD! THE NIGHT MARE
電子音のリズムとピアノをフィーチャーしたメロウなバラード。静かに闇をたたえるシンプルなサウンドと美麗なコーラス・ワークが、ダークでありつつもドリーミーな音像を生み出している。中盤に差し込まれるギター・ノイズがアクセントとなっている。
14FOR MARTHA
物悲しいピアノのメロディを前面に押し出したメランコリックなバラード。ピアノのメロディの美しさも素晴らしいが、時につぶやくように、時にむせび泣くかのように表情を変えるビリーのヴォーカルの技量にも注目だ。
15BLANK PAGE
電子音などのコラージュを挟みながら、基本はピアノのコード進行とビリーの歌声だけで構成された一曲。つかず離れずで折り重なる、ビリーの多重コーラスが引き起こすドリーミーな世界と極限まで純化されたメロディに酔いしれる、歌の結晶ともいうべき作品だ。
16ONCE IN A WHILE
爽やかなピアノのフレーズとバンド・セッションが聴かせるミドル・チューン。アコースティック・セッションのシンプルなサウンドではあるが、メロディはどこかしらグランジ的な匂いが漂っており、スマパン特有の憂鬱さが感じられる。
1717
タイトル通り17秒しかないインスト・ナンバー。シンプルなピアノのメロディが唐突に終わるので一瞬戸惑うが、アルバム『アドア』を締めくくるアウトロ的なナンバーとしては、ひとつの物語の余韻を味わうエピローグとして上手く機能している。