ミニ・レビュー
ユーミンのベストと同時期に発売された中島みゆきのベスト盤。本盤は、今までTVドラマや映画などで使われた曲ばかりを集めている。98年当時で10回目を迎え、以降不定期開催となった“夜会”のテーマ(9)はいつ聴いても感動。
ガイドコメント
ミリオン・ヒットとなったベスト・アルバム『大吟醸』に続くベスト盤で、今回はドラマや映画の主題歌、挿入歌からの選曲となっている。ずっしりと重いが、常に前向きな感じはさすが。
収録曲
01糸
人々が織り成す「絆の布」が、いつか世界を温めるかも知れない……。人の縁に例えられる糸を、人類愛という壮大なテーマに昇華した、中島らしいバラード・ソング。慈愛に満ちた歌声に、誰しもが心打たれるであろう名曲。
02命の別名
いつになくヴォーカルが前面に押し出されたこの曲のテーマは「命」。人と人とが互いに傷つけあってしまうこの世界を憂う歌詞に、思わず引き込まれてしまう。こういう歌こそが世界に必要なのだ。
03たかが愛
愛に迷い、傷つき、時には捨ててしまいたくなっても、人は人を愛することを止めない。そんな人間の不格好で、そして一番美しい姿を歌い上げた劇的なバラード。ストリングスの壮大なアレンジさえ霞む、魂揺さぶる歌唱は圧巻である。
04愛情物語
愛しているからこそ、離れなければいけない……。そんな究極の愛の形を追究した、アップ・テンポのロック・ナンバー。非情さと情愛が激しく葛藤する女の心理を、おどろおどろしいまでの強烈な歌唱で見事に描き上げる。
05世情
グレゴリオ聖歌のような、イントロの男性コーラスに唖然としているうちに、彼女の憂いを含んだ歌声が徐々にこだましてくる。どこか宗教音楽の祈りにも通じる世界があり、聴く者を異空間へといざなう。
06with
「with」……人と人とのつながりが希薄な現代だからこそ大切にしたいこの言葉を、慈愛溢れる中島節でリフレインしていく名バラード。子守唄にも似た穏やかさの中に秘められた力強いメッセージに、じっくり耳を傾けてほしい。
07私たちは春の中で
人々が浮かれがちな「春」を「過ちの季節」として捉え、苛立ちを含んだ歌唱でもって世間に叩きつけた衝撃作。労働歌のような泥臭いメロディとコブシ炸裂の中島節は、春のイメージにはあまりに遠く、そしてあまりに強烈。
08眠らないで
シャンソン歌手のごとくの艶やかな歌唱に思わずうっとりしてしまう、シックなスロー・バラード。どこか懐かしいメロディ・ラインに格調高いストリングスを加えたサウンドは、昭和モダンの香り漂うレトロで上品な仕上がり。
09二隻 (そう)の舟
人生はまさに嵐の大海原。「絆」を武器に必死に生きる人の様を、「二隻の舟」に準えたドラマティックな超大作。『夜会』のテーマ・ソングとしても知られ、魂揺さぶるその表現豊かな歌唱に感動を禁じえない、名曲中の名曲である。
10瞬きもせず
人は愚かな獣、そして一瞬で消える儚い光……。まるで宇宙から見据えるような視点で、その命の愛おしさを綴ったスケール感溢れるバラード。子供たちの無垢なコーラスをバックに情愛豊かに歌う様は、あたかも女神の声のごとくである。