ミニ・レビュー
メジャーの中のアングラという感じ。昔風にいえば無国籍でインナーな音楽。引きしめた後さらい余分なものを取り去ったあけすけな歌世界。エコーの薄さが自信の証し。これもジャズだと思ったほうがおもしろい。悲しい色彩がふんわり音に溶け込んでいます。
ガイドコメント
AJICOでの活動を経て、UAがついに3年ぶりのオリジナル・アルバムを発表。初の主演映画『水の女』も公開され、今秋は彼女から目が離せなくなりそう。
収録曲
01記憶喪失
地を這うようなベース・ラインの上をゆらりゆらりとメロディが漂い続けるダークなナンバー。それほど盛り上がる展開の曲ではないにも関わらず、ひりひりとした演奏と詩的な言葉からは大きなカタルシスを得ることが出来る。
02閃光 (アルバム・ヴァージョン)
エレクトロニカ・テイストだったシングルから一転し、生音のみで構成されたアレンジ・ヴァージョン。より肉体的、躍動的になったサウンドが、原曲とはまったく違う側面を見せ、より深遠な歌の世界を見せてくれる。
03泥棒
4thアルバム『泥棒』のタイトル・トラック。ブルージィな香りに満ち、楽器の音色と呼応するかのようなUAの真骨頂ともいえる“歌”が聴きどころ。これまでになくダークな世界観が漂う一曲。
04瞬間
ポエトリー・リーディングで聴かせるダウナーな前半部と、ジャズで聴かせるアッパーな後半部で構成された壮大なナンバー。陰と陽、内と外、躁と鬱というまったく逆のベクトルの間を行き来しながらも、絶妙なバランスで聴かせるのは流石の手腕。
05世界
ループするリズムとサウンド、淡々とした歌が徐々に絡まり合い、生み出されていく立体的なサウンドは、まさに「世界」を構築。鳥がさえずるようなノイズ音も挿入されており、イマジネーションも刺激される。
06ブエノスアイレス
ミニマルなメロディのループと淡々と語り紡がれる詞の世界。反復しながら少しずつ絡まり合うメロディがとてつもない高揚感を引き起こす。8分に及ぶ超大作だが、それを感じさせないのは完成された世界観ゆえだろう。
07ドア
気まぐれに跳ねるベースやギターの音色は一見不協和なようだが、それらがやがてルーズなメロディを練り上げていき、ドラマティックなストリングスが曲全体を盛り上げていく。アヴァンギャルドなようでいて実はしっかりポップだ。
08彼方
荒涼とした音の世界観をジャジィなサウンドで聴かせる濃密な一曲。気だるくもひりひりとした皮膚感覚が、恐ろしいまでの緊張感を伴って、聴くものの心に迫る。前衛的でありつつもしっかりポップネスを維持したUAらしい楽曲だ。