ミニ・レビュー
前作『三日月ロック』も名曲オン・パレードの傑作だったが、11枚目の本作はそれ以上のクオリティ。沖縄風やストリングスの導入などで新味を加えながら、王道メロディが冴えわたる。ひたすら気持ちいい音響にも注目。プロデュースはもちろん、東京事変の亀田誠治。★
ガイドコメント
『三日月ロック』から約2年4ヵ月ぶり、11枚目のアルバム。前作に引き続き、亀田誠治をプロデュースに迎えた本作、シングル「正夢」をはじめ、よりポップでスケールの大きな楽曲ばかりが収録。
収録曲
01春の歌
イントロを駆け抜けるギターは、まさに春風のごとく。新しい季節の幕開けにふさわしい、爽やかなナンバーだ。愛と希望の中で舞い上がる、訳もない切なさ。ドラマティックななかにも、繊細な季節感を描くマサムネ・メロディは圧巻。
02ありふれた人生
ストリングスをフィーチャーした、明るいアコースティック・ナンバー。切ない想いを綴るわりに、そのサウンドは底抜けにハッピーで、一面バラ色。想う人がいる、ただそれだけのありふれた人生が、一番幸せってことかな。
03甘ったれクリーチャー
ダイナミックな4つ打ちバスと、力強いベース・ラインに煽られ、甘ったれな“生き物”が堂々とその弱さを語り始め、ついには「甘えたい」とその欲望を赤裸々に歌い上げる。スピッツ史上最強の“弱虫万歳”ソングである。
04優しくなりたいな
初恋のピュアで優しくて、ちょっと切ない心模様が蘇る、スピッツ史上初の王道ピアノ・バラード。ヴィンテージ・レコードのようなレトロな音の質感が、マサムネの声と相まって温かい気持ちにさせてくれること必至だ。
05ナンプラー日和
沖縄音階のメロディに三線をフィーチャーした、琉球サウンド全開のニュー・スピッツ・ワールド。エイサー+ロックがあいまって生まれる、いまだかつてない新鮮なグルーヴ感に、新しい踊りも発明できそうな勢いさぁ〜!
06正夢
ドラマティックなストリングスが涙をそそる、切ないアコースティック・バラード。”君”との再会というあてもない妄想が、どうか正夢だったなら……そんなあふれ出でる想いは、ギターの轟と溶け合い、どこまでも広がってゆく。
07ほのほ
君のためにボロボロになりたい。スピッツ版『二都物語』と言える(?)ドラマティックなラヴ・ソング。どこか窮屈なAメロでちぢこまる主人公は、解放的なBメロで、ここぞとばかりに愛という真赤な“炎”を燃え上がらせる。
08ワタリ
映画『WATARIDORI』にインスパイアされたという、疾風怒濤のロック・ナンバー。自嘲的なヴォーカルといい、衝動に駆られたプレイといい、良い意味で若手バンドの音。青二才に戻ったスピッツを体感できる、鮮烈な作品だ。
09恋のはじまり
“君”を思い浮かべても、ちょっとはっきりしない。恋のはじまりならではの、淡い想いとともに幕を開ける、幸せいっぱいのアコースティック・ナンバー。次第に明るさを増す展開は、まさに恋ができ上がる眩しいプロセスそのもの。
10自転車
自転車で彼女に会いにゆく道のりに、人生の道のりを重ねて描いた、レゲエ調のナンバー。ゆらゆらと迷いを引きずる主人公が、“なんとかなるだろう”というお気楽な結論に達するまでの過程が、正宗らしい奥深い表現を絡めて綴られる。
11テイタム・オニール
感情の嵐が、かき鳴らすギター・リフと一体になり疾走していくビート・モッズ風ナンバー。といっても臆病な声をぶちまけるサビは、ばっちり歌謡曲。ちなみにタイトルは少年野球映画の主人公の名。恋の駆け引きを野球になぞらえたのだとか。
12会いに行くよ
“会いに行くよ”……、ただそれだけのメッセージを、繊細な風景描写に絡めて歌い上げるシンプルで美しいバラード。どんな気持ちも電波に託してしまう、そんな味気ない現代だからこそ大切に聴きたい名曲である。
13みそか
“浮いて、浮いて、浮きまくる覚悟はできるか”、ならば俺について来い! といわんばかりの男気がほとばしる、ダイナミックなロック・ナンバー。世界を俺色に染めてやる、そんな気迫さえ漂う歌声は圧巻。マサムネ君、君は本当に強くなった。