ミニ・レビュー
原田郁子(vo,p)、ミト(bs)、伊藤大助(ds)からなるクラムボン、前作から1年4ヵ月ぶりのリリースとなる6枚目のアルバム。2枚組だが楽曲はまったく同じもので、モノ・ミックス盤と益子樹によるステレオ・ミックス盤という組み合わせになっている。
ガイドコメント
メンバーのミトがプロデュースを手がける1年3ヵ月ぶりとなる移籍第2弾アルバム。新たな世界観を打ち出した意欲作。オリジナル音源12曲とダブ・ミックスによる2枚組。
収録曲
[Disc 1]〈mono〉
01バイタルサイン
02loop bridge
03柏手
04インパクト
05ハローハローハロー
06hoshinoiro
07アンセム
08炉
09ホムンクルス
10sonor
11ふたり
12itqou
[Disc 2]〈stereo〉
01バイタルサイン
バイタル・サイン=生命の証し(または、生きている実感)をテーマにした人気ロック・ナンバー。そのテーマに沿うように、小さい演奏ミスは修正されず、バンドの一体感を重視した臨場感あるアンサンブルが展開される。
02loop bridge
プログレ的展開を見せるミディアム・ナンバー。楽曲全体を物憂げな雰囲気で包み込む原田郁子のささやくようなヴォーカルと陰のあるコード・ワークが特徴的。初期キング・クリムゾンのような質感のドラムが印象に強い。
03柏手
ラテン・テイストのリズミカルなナンバー。ピアノが鮮やかなフレーズを奏でているためか、3人で演奏しているとは思えないほどサウンドが厚い。メンバー各々が楽しんで演奏しているのが聴き手に伝わってくる好演だ。
04インパクト
うねるベースとグルーヴィなファンク・ビートが絶妙に絡むスリリングなナンバー。アルバム『てん、』制作にあたっての3人の熱い思いを綴った歌詞や終盤のドラマティックな展開など、まさにインパクトのある1曲。
05ハローハローハロー
ギターのような和音を奏でるベースを軸にしたスペイシーな8ビート・ナンバー。メロディもコード進行も劇的な変化はないが、インパクトの強いメロディと原田郁子の存在感あるヴォーカルが聴き手を充分に引きつける。
06hoshinoiro
ジャム・セッション風インスト曲。16ビート基調の前半とテンポ・アップする後半という2部構成。ジャズ的インプロヴィゼーションはなく、ロック的アプローチによるバンド全体のアンサンブルを楽しむといった趣き。
07アンセム
飛行機をモチーフにしたテクノ・ポップ・チューン。B-52'sを彷彿とさせる原田郁子とミトによるユニゾン・ヴォーカルが特徴的。メンバーらのお茶目な笑い声は“mono”ヴァージョンには入っていない。
08炉
6/8拍子基調のリズミックなナンバー。妖しげでスリリングで民族的な捕らえどころのない独特のサウンドとイメージ重視のややサイケデリックな歌詞が無比の世界観を創出。クラムボン流前衛プログレ・サウンド。
09ホムンクルス
ミトの作詞作曲によるワルツ調ナンバー。“ホムンクルス”をモチーフにした歌詞はやや難解で、初期の「シカゴ」にも似た精神性が感じられる。原田郁子のヴォーカルは歌詞の捉え方次第で切なくも不気味にも聴こえる。
10sonor
アンビエント・ナンバー。タイトルの由来は伊藤大助の使用しているドラムのメーカー名だが、サウンド的には海底調査の“ソナー”を想起させる。6thアルバム『てん、』では、本曲から続くアンビエント風ナンバーのリード・トラック的役割を担っている。
11ふたり
原田郁子の作詞作曲による2部構成のライト・ポップス。か細くも情感豊かなヴォーカルが美しいナンバーだが、中盤の2分間はピアノをフィーチャーした完全なるアンビエント・ミュージックで、雰囲気を異にしている。
12itqou
6thアルバム『てん、』のラストを飾るインストゥルメンタル・ナンバー。序盤に一旦チルアウトさせ、次第にヴォイス・パーカッションや生ドラムが加わりクライマックスを迎える、10分弱に及ぶ大作アンビエント。