ミニ・レビュー
小田和正がいまだ第一線のポップ・シンガーだということを知らしめる一作。声にはさらに迫力が増し、ラブ・ソングを歌うことへの覚悟も明快。揺らぎのなさでリスナーの心に迫る、直球勝負の全11曲。うち10曲がタイアップ曲。タイトルが最大の謎。★
ガイドコメント
2002年『自己ベスト』以来のアルバム。明治安田生命CM曲でもある先行シングル「たしかなこと」やTV主題歌「風のようにうたが流れていた」など、タイアップ曲を多数収録した注目作だ。
収録曲
01まっ白
TVドラマ『それは、突然、嵐のように…』主題歌のために書き下ろされたミディアム・テンポのバラード。惹かれ合う恋人たちの心のときめきをいっそう盛り上げる、ウインター・ラヴ・ソング。
02静かな場所
聴き易いメロディなのに、コード進行は複雑なものが多い彼の、“優雅な白鳥も水面下では……”な資質を象徴する曲。秘めたる思いを心の奥底の部分で回顧する、微妙に言い訳めいた歌詞は、年嵩の人ほど心身に沁みそう。
03大好きな君に
優しい歌声をとことん映えさせた静かな趣のクリスマス・ナンバーは、歌詞に若葉や夏などの非クリスマス語が登場する言語感覚の妙も味わい聴きたい。打ち込みピアノやストリングスの音が聖夜のムードをしんしんと演出。
04僕らの夏
自らの人生を振り返りながら、もう明日はない、勝ち組であり続けるのは不可能と語る歌詞が、団塊世代の疲れたハートを直撃する劇的なナンバー。二胡の心地良くゆるやかな調べが、聴き手自身の人生にも悠久の重みを。
05Re
メールに関する描写は冒頭のほんの一部分で、95%はメールと無関係の表現を連ねたラブ・ソング。そんな歌詞とベタな曲題に、ひょっとしてメールを覚えた嬉しさから曲を!? なんて思ってしまう微笑ましさが漂っている。
06正義は勝つ
強く言い切った曲題に対し聴き手が抱くであろう「“正義”とは?」の問い。が、ホーンの音色で華やかに彩られたアゲアゲの曲調が、そんな疑問も吹き飛ばす。小泉首相のワンワード・ポリティクスにも通じた力技ナンバー。
07たしかなこと
横や後ろや斜め前から歌われたものが多い彼のラブ・ソングにあって、対象に真っ直ぐ向き合い歌われている感があるこの曲は新鮮。そのためか、彼の伸びやかな歌声がこれまで以上に慈愛を湛えているように思えてくる。
08僕ら
アルバム『そうかな』収録曲中でも最高レベルに力感あふれる歌唱が堪能できる曲。それでいて歌詞では、「いつ」「誰が」「どこで」が抽象的に語られ、明瞭さと不明瞭さによる不思議なコントラストを描いてみせる。
09明日
“9.11”を念頭に書かれたこの曲は、歌詞を彩る祈り、過ち、哀しみを曲調で体現。少年合唱団を従え「戦うべき時がある」と歌う政治色濃いサビは、聴き手が戦うべき対象をどう捉えるかで、聴いた印象も大きく異なるはず。
10風のようにうたが流れていた
シンプルに歌う前半部から、同様にシンプルながらもストリングスを従えた後半部へとテクニカルに展開するアレンジが地味に巧み。ア・カペラのような趣があるので、彼の歌声だけをじっくりと聴いてみたい人にオススメ。
11そして今も
人生を回顧し今後の展望を述べる歌詞、静かに進行しサビで歌い上げるドラマティックな曲展開は、さながら小田和正版「マイ・ウェイ」、あるいは「昴」。細切れ気味な節回しも、彼の歌唱力だからこその匠の味わい。