ガイドコメント
3ピース・バンド、ザ・バックホーンのメジャーからの1stアルバム。聴き手に体当たりしてくるエネルギーと荒削りなサウンド、そして異常なまでのエモーショナルなリズム感が魅力。
収録曲
01幾千光年の孤独
小気味良いギター・リフにかかった重苦しいディストーションが、ヴォーカル山田の心を押しつぶすがごとく鳴りわたる。上部まで見渡せないほど高く厚い壁に向かって叫ぶような、やけくそ的ヴォーカルがインパクト大。昭和の純文学を連想させるクオリティの高い詞にも注目。
02セレナーデ
シンプルなリズムを奏でるドラム&ベースを基盤に、メリハリをつけたギター・プレイが冴えわたる。盛り上げどころが明確なアレンジも効果的で、痛快なパンク風ロック・サウンドを完成させている。
03サニー
前半は、メタル風味に味付けされたベース・ラインとスカの要素を採り入れたギター・リフとの絡みが印象的。ヴォーカルの爆発的な感情に導かれるように、徐々にパンク・ロック・サウンドへ変貌する展開が、一筋縄ではいかない彼ららしい。メジャー・デビュー・シングル。
048月の秘密
山田の圧倒的なヴォーカル・パフォーマンスが強い印象を残す。子供のような瑞々しい歌声によって描き出されるのは、現実社会のやるせない不条理さ。時折爆発させるように叫び、表現される彼の痛々しい感情は、大人の社会で生きる人に共感を呼ぶだろう。
05水槽
不気味なギター・リフに先導されるヴォーカルからシンセサイザーまでが、一貫してサスペンス・ホラーを想わせるようなダークな雰囲気で包まれている。その統一感も見事だが、次第に表情を変えていく曲構成もクオリティが高い。
06ミスターワールド
安定したビートを刻むリズム隊に支えられ、菅波の巧みなギター・プレイが炸裂。さまざまな感情を描き出す彼のプレイは、山田の揺れ動くヴォーカル・スタイルを着実にバックアップ。バンドのバランスの良さが感じられる1曲だ。
07ひょうひょうと
タイトル通りひょうひょうと歌われるヴォーカルが魅力的な楽曲。シンプルにアレンジされた歌声の中ではっきりと見えてくるのは、わが道を貫くことを決意するバンドの想い。「力まかせ信じて 強く踏み出せ」の一節が心を熱くする。
08アカイヤミ
ノイジーなギターと分厚いドラミングがぶつかり合い、挑発的なヴォーカルが叫びを上げるポスト・パンク風ナンバー。すんなりとは終わらせない曲展開やリズム隊の緩急をつけたアレンジに実験的な匂いをさせつつも、親しみやすさを失わないところが見事だ。
09雨
クリアなギターのアルペジオに導かれるように吐露される、山田のヴォーカルが不思議な後味を残す。「明日も雨降りで太陽は死にました」「もしも全て脳が映し出すノイズなら」など、聴くたびに新たなイメージを与える独創的な詞が出色。
10空、星、海の夜
激情ヴォーカルでお馴染みの山田が、穏やかな歌声を聴かせるバラード・ナンバー。瑞々しくノスタルジックなヴォーカル、メロウな曲調に合わせた優しいドラミング、緩急をつけたギター・プレイなど、彼らの器用な演奏も光りを放つ。
11夕焼けマーチ
軽快なドラムと陽気なギターが明朗なマーチ風のナンバー。陰鬱なイメージが強い彼らの奏でる「憂鬱な毎日なんて笑って吹き飛ばせばいい」という最後の一句には、文字どおりの前向きさと真逆の絶望感とが混在し、不穏な空気を残している。