ミニ・レビュー
コンサートにおける軽妙なトークで人気のテノール、秋川雅史の新録音。幅広いジャンルのコラボレーションだが、聴きものはやはりカンツォーネだ。粗削りながらも朗々と歌われた「カルーソー」など、決して美声ではないのだが人を惹きつける不思議な力を持つ。
ガイドコメント
日本の声楽におけるクロスオーヴァーの第一人者となった秋川雅史の第3弾(テイチク移籍第2弾)は、クラシックやカンツォーネ以外に、新井満や美空ひばりの曲を加え、新境地をみせている意欲作。
収録曲
01Pride〜威風堂々
エルガーの行進曲1番のトリオ、いわゆる「希望と栄光の国」に松井五郎が日本語詞をつけた作品。鳥のように両手を広げて飛び立とう……と、前向きな生き方を堂々たる風情で歌い上げている。生きるパワーをもらえる一曲だ。
02津軽のふるさと
美空ひばり初期のヒット曲として知られる青森のご当地ソングをリメイク。癒しをもたらすテノール・ヴォイスで郷土愛を歌う。ストリングスとハープによるシンプルで美しい旋律が、寒々しい北国の情景にぴったり。
03タイム・トゥ・セイ・グッバイ (duet with 半田美和子)
サラ・ブライトマンで知られるクラシカル・クロスオーヴァーの代表曲を、半田美和子とのデュエットでカヴァー。両者ともにストレートな歌を披露し、新たな世界へ旅立とうと誘ってくれる。終盤の盛り上がり方が最高だ!
04ヴォラーレ
青い空に飛び立つ心情を歌ったドメニコ・モドゥーニョによる名曲をカヴァー。明るいポップス調のオリジナルに比べ、クラシック寄りのアレンジとなっている。オーケストレーションとイタリアン・ギターの融合も楽しいナンバー。
05カルーソー
パヴァロッティらも歌っているルチオ・ダルラのカンツォーネをカヴァー。往年の歌劇王カルーソーを歌ったもので、語りかけるようななめらかな発声が印象的だ。最高の美声と謳われた歌劇王へのリスペクトが伝わってくる。
06千の風になって
世界中で詠み継がれてきた追悼詩に基づく新井満作曲のバラードが、伸びやかなテノールによりスケールの大きな楽曲へと変化。自身初となるシングルで、2006年末のNHK『紅白歌合戦』の出演を機に、爆発的に広まったナンバーだ。
07グラナダ
メキシコが誇るソングライター・ララが、歴史と闘牛の地・グラナダへの思いを込めて作った初期代表曲をカヴァー。クラシックのストリングスとフラメンコのリズムが絶妙にブレンドされるなかで、情熱的な歌声が響きわたる。
08歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲〜アネモネ
シチリアを舞台にした三角関係と悲劇を歌ったヴェリズモ・オペラの間奏部をリアレンジ。決闘前の静けさを表わすような美しいオリジナル曲に対して、こちらは派手なオーケストレーションでドラマティックに仕上げている。
09いい日旅立ち
1978年リリースの山口百恵で知られる旅立ちソングを声楽曲風にリメイク。谷村新司作の美しいメロディをピアノが奏でるなかで、驚くほどゆったりと歌い上げていく。原曲が持っている切なさや孤独感がより深く伝わるナンバーだ。
10君と旅立とう (「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」ソロバージョン)
盲目のイタリア人テノール歌手ボチェッリによる「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」をカヴァー。男性ヴォーカルのソロによって重厚感が増し、旅立ちに際しての決意が感じられる。イタリアン・ギターも効果的だ。
11ここに君がいれば (歌劇「イーゴリ公」〜だったん人の踊り)
ボロディン作曲による歌劇の美しき旋律で知られる舞曲を、耳あたりの良い失恋ソングにリアレンジ。ヨーロッパ音楽にスラヴ民族の要素を加味したオリジナルから一転して、ボサ・ノヴァ風のミディアム・チューンとして仕上げている。
12Pride〜威風堂々 (duet with 半田美和子)
エルガー作の行進曲1番のトリオに日本語詞をつけたものを、半田美和子とのデュエットで熱唱。女性ヴォーカルで始まるためか、優しいイメージになった。終盤のハーモニーと掛け合いがダイナミックで胸に迫るナンバー。