ミニ・レビュー
重く緩やかなラップ・サウンドに乗って、微妙なユニゾンを聴かせるヴォーカルの気怠さ。サンプリングよりもキーボードによるバック・トラックを重視し、KREVAとCUEZEROによるこの二人組ユニットは、不思議な浮遊感のあるアンビエント・サウンドを作り上げる。
ガイドコメント
このユニットなくしてKICK THE CAN CREWは存在しなかった。本作は、KREVA×CUEZEROというJ-ヒップホップ界伝説のMCによるユニットのアルバム。30代の男2人が歌う20年来の友情物語ともいえる、味わい深い1枚だ。
収録曲
01ラストコンサート
ゆったりとしたセクシーなジャズとともにバイ ファー ザ ドーペスト登場。ささやくような2人のラップが、曲にさらなる色気を加えていく。最後のコーラスはステルヴィオ・チプリアニの「美しい愛の始まり」を大胆にフィーチャー。
02でっかい内緒話
メキシコ音楽“マリアッチ”を想起させる乾いたギターのフレーズに合わせて、小声でささやかれる内緒話ラップ。淡々としたミニマルなトラックとラップが、怪しくもユニークに響く。曲の途中から顔を出すスクラッチは、KREVAの手によるもの。
03We back!
日本語ヒップホップには珍しい、エレクトロニカのように音数の少ないストイックなトラックが印象的。BPMを抑えたトラックとディレイのかかったラップが、夜を想起させる。「シウバ・ヴァンダレイ」「アン・ジョンファン」という名前を連呼するユニークなフロウも彼ららしい。
04だからどうした!〜あLet's go〜
跳ねるドラムやホーンをフィーチャーした上モノ、ド派手なコーラス・ワークによるフックと、ファンキーな要素がふんだんに盛り込まれた楽曲。2人のラップも他の曲に比べて高速仕様。ドープさとファンクネスを兼ね備えた、玄人好みのパーティ・ソングだ。
05YEAAAH!
大ネタのワイルド・チェリー「プレイ・ザット・ファンキー・ミュージック」をサンプリングしながら、イージーなファンクで終わらせない手腕はさすが。遅めに設定されたBPMで、ラップが不穏にささやかれる。薄暗いクラブが似合う、アダルティな黒いグルーヴが映えるナンバー。
06Daaam
鳥肌が立つほどセクシーなサックスのフレーズは、TOM RANIERの「I LOVE YOU DAWN」。しかし、ラップは悲哀の自虐ネタで、線の細いサックスが悲しみに拍車をかけている。スクラッチはKREVAによるもの。
07恥じゃない
08音愕業改
音愕業改=オンガクギョウカイに対する皮肉が込められたアッパーな楽曲。「邪頭(ジャズ)」「苦楽死苦(クラシック)」「岩(ロック)」と音楽のジャンルを妖怪の名前に見立てたリリックがユニークだ。ネタは四人囃子「泳ぐなネッシー」から。
09天国と地獄
ハンドクラップと涼しげなピアノのフレーズで作られたトラックが心地良いトラック。「単純な日常」が天国なのか地獄なのかは、感じ方、考え方次第だと綴る。「音愕業改」同様、四人囃子の「泳ぐなネッシー」のフレーズが用いられている。
10くれ万端
クリーン・トーンのギターとドラムのフィルが、効果的に用いられるシンプルなトラック。「KREVA準備万端、略して“くれ万端”」がタイトルの由来。ミドル・テンポのテクニカルなフロウが、ラップ・バトル王者の貫禄を感じさせる。
11アレ!〜Let's talk about〜
高音のシンセと硬質なドラム・ビーツが派手に響く、ギャングスタ風のトラックが特徴。「アレ」について語られる意味深なリリックがユーモラスで、またどこかセクシーだ。ライミングのアイディアはさすがで、トラックのシンプルさが効果的に作用している。
12ファット坊や
ビートはゆったりとしたミドル・テンポで、儚く爪弾かれるギターには透明感のあるディレイがかけられている。どんなグループにも1人はいる「ファットな坊や」に関する、悲しくも温かい物語。豚鼻とゲップがサンプリングされている。
13やるぞやるぞとは聞いてはいたけどそれ以上にやる
まずタイトルが白眉。BLAST RAMPAGEをゲストに迎えた、アルバム『だからどうした!』のハイライト。ライトなファンキーさをたたえたドラムのフレーズ、KREVAのスクラッチを用いたシンプルなトラックに、上質なマイクリレーが絡むナンバー。
14安全運転
低音ピアノがボトムを支え、時折鳴らされるホーンが艶めいたダンディさを醸し出している。ZULEMEの「I LOVE YOU BABY」を用いたジャジィなトラック上で踊るのは、おそらく世界一ファンキーな安全運転賛歌だ。
151976のノイズ
アルバム『だからどうした!』のラストは、EDDIE KENDRICKSの「THE SWEETER YOU TREAT HER」を大胆に用いることで雄大なトラックに仕上げた、1976年生まれの彼らの“生誕30周年”賛歌。フックのメロディも、ネタとのユニゾンになっている。