ミニ・レビュー
シングル「パラレル・ラブ」で再結成した彼らの10年ぶり(!)の2作目。全体の空気感は、ユーモラスでシニカルで、ともすれば脱力的。でも好きなことを勝手にやっていますよ的な雰囲気が心地いい。つい深読みしてしまう個性的なリリックや二人の声の絡みも楽しい。
ガイドコメント
『ショッピング』以来、約10年ぶりとなる井上陽水奥田民生のアルバム。音を鳴らすことを楽しんでいるような2人のハーモニーが楽しめるほか、それぞれがリード・ヴォーカルを担当するナンバーも収録。
収録曲
01アウトバーンの狼
シャウトも飛び出す、軽快なロックンロール・ナンバー。陽水のゴキゲンなヴォーカルが冴えわたり、人を喰ったような“がっ!”と、その後のサビへとつながる間が絶妙。松雪泰子やLeyonaがコーラスで参加している。
02パラレル・ラブ
伝説のスーパー・ユニットが再結成! ルーズでナチュラルな佇まいはそのままだが、ものすごい吸引力だ。独特の世界観で恋するふたりの関係をシュールに描いている、ハーモニーの聴き応えも十分なポップ・ロック・チューンだ。
03HIROSHIMA
民生の地元・広島を歌ったナンバーで、リリックにもローカルな地名が数多く登場する。アコギを全面に押し出し、3拍子でゆったりと刻むリズムが醸し出す情緒には、どことなくノスタルジックな味わいがある。
04海の中道
民生が「HIROSHIMA」で故郷を歌うのなら、福岡出身の陽水は通称“うみなか”で知られる国営公園を歌う。リゾート感覚に彩られた軽めのポップ・チューンで、リラックス・ムード満点の仕上がり。つじあやのによる爽やかでキュートなコーラスが、ウキウキ度を盛り上げている。
05パスタ・セレナーデ
タイトルのパスタとセレナーデを結びつけるセンスが面白い。パスタといえばイタリア、イタリアといえば陽気なラテン系……と想像しがちだが、ここは“小夜曲”を優先。メロウなギター・リフが印象的な、アダルティなナンバーに仕上げている。
06京都に電話して
言葉遊び炸裂のリリックにふたりのパワフルなヴォーカルが絡みつく、民生の速弾きギターも楽しめるヘヴィ・チューン。ヘンテコ感を漂わせながらも、しっかりとアーティスティックなロックを披露している。その個性は唯一無比だ。
07恋はハーモニー
流れるようなサビのメロディが印象的な、軽快なポップ・チューン。思わずリズムをとってしまう、佐藤タイジ(シアターブルック)、松雪泰子、Leyonaによるハンドクラップや、陽水と民生のハーモニーも楽しめる。
08砂漠のデザート
シュールなリリックを何食わぬ顔で歌う粘りつくようなヴォーカルが、いたって陽水らしいスロー・ナンバー。パーカッションの「パカパカ」という響きと漂泊の想いを閉じ込めたようなマイナーなメロディが、キャラバンを彷彿とさせるようだ。
09羽飾りMOKKO
せつなさを色濃く出した民生のヴォーカルが生々しい、重たい感触を持ったミディアム・チューン。歌詞の持つ意味が深いのか浅いのか、単に言葉を受け止めるだけではわからないといったもどかしさが、不思議と心地いい。
10にじむ虹
肩肘を張らない陽水のヴォーカルが爽快な、開放感のあるミディアム・ロック・チューン。ベースの小原礼、ドラムの沼澤尚といったサウンドのボトムを支えるベテラン二人による、懐かしさを感じさせるコーラスもいい。
11神の技
オールディーズ調の雰囲気のなかをスカパラのホーン・セクションが派手に響きわたる、アッパーなパーティ・チューン。“マドリー、ミラノ、チェルシー”といった詞が連なるサッカー賛歌で、神の技を持つ“17才の左利きのジャポネーゼ”について歌っている。
12クリスマス・バニラシェイク
“好きだ”“愛してる”といった直接的な言葉はいっさい出てこないが、しっかりと気持ちを満たしてくれる正しい在り方のクリスマス・ソング。後半に向けて音の厚みが増して盛り上がりを迎える、ゆったりとした展開のバラードだ。
13南国の雪
アコギによるイントロが素敵な、ゆったりとしたアコースティック・ナンバー。陽水のヴォーカルに寄り添う民生のコーラスが温かい。二人のキャラが生み出すカラッとした叙情が全編を包んで、とても穏やかな空気が流れているようだ。