ミニ・レビュー
前作『スポーツ』(2010年)で獲得した圧倒的な肉体性を武器にして、さらなる音楽的発見を追求した5枚目。ロック、ジャズ、シャンソン、ラテンといったカラフルな音楽性はさらに広がりを増し、卓越したテクニックを持つメンバーたちの交歓的なセッションも向上。何度聴いてもハッとさせられる充実作だ。
ガイドコメント
東京事変の通算5枚目となるアルバム。タイトルの“大発見”を制作コンセプトに、メンバー各々が未だ見せぬ引き出しを開けることにトライした。シングル曲「空が鳴っている」「女の子は誰でも」などを収めた、ヴァラエティ豊かな一枚。
収録曲
01天国へようこそ (For The Disc)
オダギリジョー、栗山千明主演のテレビ朝日系ドラマ『熱海の捜査官』主題歌用に書き下ろされた楽曲の別ヴァージョン。椎名林檎お得意の半音で動くメロディと大きなテンポの中で細かく刻む浮雲のギター・プレイが独特な空気を作り上げる。詞も日本語になっている。
02絶対値対相対値
刄田綴色のテクニカルかつ力強いドラミングが際立つワイルドなロック・チューン。“茶禅一致で挙国一致よ 日本はここぞ天晴れ”と詰め込み気味に乗せていく言葉のセンスはさすが。コーラスを使いプログレ風に展開するブリッジも新鮮で面白い。
03新しい文明開化
爽快に突き抜けるメロディ・ラインと疾走感のあるサウンドで展開する、ポップでロックなキラー・チューン。全体的に王道よりのアレンジながらも、ギター・ソロをはじめ随所に手癖のようなフックが用意されている。東京メトロCMソング。
04電気のない都市
伊澤一葉作曲のバラード。ピアノと歌による穏やかな始まりから徐々に盛り上がり、感動的な大サビを経てラストはまたピアノ一本で終わるというドラマティックな展開が秀逸。“僕ら生きているよ密かに”と痛切に歌う林檎の歌唱も印象的だ。
05海底に巣くう男
亀田誠治の印象的なベース・リフで幕を開ける、ブルース色が強く出たロック・ナンバー。浮雲が作詞作曲を手がけた作品で、“アナタは敏腕”というフレーズが印象的なサビをはじめ、言葉のノリかたが絶妙。セクシーな林檎の歌唱の魅力が際立つ。
06禁じられた遊び
緊張感あふれるサウンドと意表をつくアレンジなど、東京事変の特長が現れたロック・チューン。エコーの効いたヴォーカルと空間的なアプローチから、サビで一気に爆発する。“宵闇は片袖を逃げだす露玉匿った”と、美しい言葉で許されぬ恋を綴る歌詞も魅力的。
07ドーパミント! (BPM103)
江崎グリコ『ウォータリングキスミント』CMソングをBPM(曲の速さ)を落として収録。ジャズ・テイストを押し出したクールなナンバーに生まれ変わっている。よどみなく展開しつつ、随所に見せるフレーズに各メンバーの技量の高さがうかがえる。
08恐るべき大人達
亀田誠司×椎名林檎による共同制作曲。ギターのカッティングやキーボードの音色に英語詞もあいまっての、80年代AORを想い起こさせるような洗練されたアレンジが印象的なポップスだ。タイトルはジャン・コクトーの小説『恐るべき子供たち』からか。
0921世紀宇宙の子
爽やかなメロディと疾走感のあるバンド・サウンドが心地よいロック・チューン。新しい世代を生きる君に対して、“独り言を口ずさもう一緒に”と独特の表現で背中を押す歌詞が心を打つ。ストレートなアレンジもかえって新鮮だ。
10かつては男と女
アンビエントなキーボードによるイントロから一転、洗練されたゆったりめのバンド・サウンドへと展開するポップ・ナンバー。最小限の音数ながらしっかりとビートを打ち出すアンサンブルの妙を聴かせる技術はさすが。私小説風の歌詞が印象的。
11空が鳴っている
作詞椎名林檎、作曲亀田誠治による江崎グリコ『ウォータリングキスミント』CMソング起用の7thシングル。かき鳴らすギターのイントロから緊張感を含みつつ走るサウンドに、若干抑え目のヴォーカルを乗せるクールなロック・チューンだ。
12風に肖って行け
浮遊感のある始まりから、ヘヴィなサウンドと不思議なメロディ、そして浮雲が奏でる変態的なギター・ソロへとスリリングかつ自由に展開するナンバー。伊澤一葉のコードワークとバンドの編曲能力の高さで見事にまとめあげている。
13女の子は誰でも
資生堂『マキアージュ』CMソングの7thシングル。編曲を服部隆之が手がけ、東京マジカルビッグバンドが参加したビッグバンド・ジャズ風ナンバーだ。“女の子は誰でも魔法使いに向いている”の歌詞にピッタリの、キュートできらびやかなサウンドが楽しい。
14天国へようこそ (For The Tube)
テレビ朝日系ドラマ『熱海の捜査官』主題歌用に書き下ろされた楽曲。ドラマの世界を見事に切り取ったような不穏な雰囲気をまといつつ始まり、後半に進むにつれ狂気を帯びたように激しいサウンドへと変化する圧巻の展開。林檎の歌唱も圧倒的だ。