ミニ・レビュー
ブラック・アイド・ピーズを率いる、現代米国アーバン音楽シーンの重要人物の一人、ウィル・アイ・アムの2013年ソロ作。ブリトニー・スピアーズやクリス・ブラウンほか、ほとんどの曲にゲストが関与。エレクトロ音やビートの奥から、不思議なほどのポップ性や親しみやすさが浮き出ている。
ガイドコメント
前作『ソングス・アバウト・ガールズ』以来約4年ぶりとなる、BEPの頭脳=ウィル・アイ・アムの2ndアルバム。ブリトニー・スピアーズを迎えた「スクリーム&シャウト」やジャスティン・ビーバー客演の「#ザットパワー」ほか豪華ゲストも多数参加。
収録曲
[Disc 1]
01GOOD MORNING
神聖な雰囲気を醸し出すドリーミーなHigh Highs「flowers bloom」をサンプリングした、アルバム『 ウィルパワー』の冒頭を飾る約1分45秒弱の小品。やわらかで芽生えのような生命力あふれるストリングスとともに、朝の始まりを告げる。
02HELLO
アフロジャックとの共作によるエレクトロ・クラブ・チューン。ストリングスを配したEDM的なアプローチから一転、トラップ・ビートへ移行する変則的な展開は、(いい意味で)変態的なウィル・アイ・アムならでは。今夜はみんなで盛り上がろうという一曲。
03THIS IS LOVE
エヴァ・シモンズの情熱的なヴォーカルを迎えたエレクトロなクラブ・チューン。トランシーなシンセとファットなビート、鍵盤と“hell yeah”のコールが印象的なフックと、表情の異なるパートを経て“愛を感じてる?”と問う姿は、実にエモーショナル。
04SCREAM & SHOUT
ブリトニー・スピアーズを迎えて彼女の「ギミー・モア」をフックにサンプリングした、アルバム『 ウィルパワー』からの2ndシングル。クラブで思いっきり叫びたいと繰り返すパーティ・ソングで、ソリッドでデジタルなクラブ・サウンドはレイジージェイが制作。
05LET'S GO
クリス・ブラウンをヴォーカルに迎えたエレクトロ・ダンス・チューン。当初は盗作騒動も持ち上がった(のちに和解)アーティ&マット・ゾー「Rebound」(2011年)をもとに制作。クリスの伸びやかなヴォーカルを活かした疾走感あふれるフックが心地よい。
06GETTIN' DUMB
ロッキンなグルーヴを追うように煽るクラップが疾走するトラックに、クネクネとうねるサイケでサイバーなパートという二面性を持ったダンス・チューン。小生意気モードな2NE1とブラック・アイド・ピーズのアップル・デ・アップをフィーチャーしている。
07GEEKIN'
日常では“PCオタク”を意味する言葉の進行形を冠して、“かっこいいオタクになってやる”と宣言。コンピュータ好きのウィルらしく、フェイスブック創設者の名やインテルCMのジングル「bong」を組み込んだルーズなビートを構築。エスニックなアレンジも印象的。
08FRESHY
スリー・シックス・マフィアのジューシー・Jを呼んだ、サウス風味のエレクトロ・ヒップホップ。チープなピコピコ電子音の間抜けさがジューシーとウィルのフロウと噛み合い、かえってこの曲の面白味を高めている。Freshm3n IIIとの共同プロデュース。
09 THATPOWER
ダミアン・リロイとの共同制作によるエレクトロ・ダンサー。バシバシ打たれる重低音ビートに添ったウィルのバウンシーなフロウ、それとは好対照な若々しく甘酸っぱいジャスティン・ビーバーのヴォーカルの組み合わせが楽しい。二人によるもっとデカくなるぜ宣言だ。
10GREAT TIMES ARE COMING
「レット・イット・ビー」や「オネスティ」風の穏やかなイントロから、ダーティなエレクトロを経て、晴れやかなレゲエ調のフックへ。ウィルらしい奇抜なアイディアが詰め込まれた展開が肝。終盤は一気にトランシーなシンセが響くエレクトロ・ハウスへと駆け上がる。
11THE WORLD IS CRAZY
ドラマティックなオーケストラをバックに配し、ダンテ・サンティアゴを客演に迎えた流麗なエレクトロ・ヒップホップ風。重厚で神々しいハイトーン・コーラスが、ノスタルジックな美しさを持ったトラックにさらなる荘重さを重ねている。プロデュースはウィル自身。
12FALL DOWN
軽やかな口笛が吹かれるガールズ・ロック上で、ウィルとマイリー・サイラスが共演。鼻っ柱の強そうな挑発的なマイリーの歌唱も魅力だが、ボンボン跳ねるシンセ・ダンス・ポップからシネマティックなオーケストラで終演する着想も耳を惹く。制作はドクター・ルークら。
13LOVE BULLETS
エミネムとのコラボで注目された、かつてホリー・ブルックとして活動したスカイラー・グレイをフィーチャー。甘いながらもしつこくないスカイラーのヴォーカルと地を這うように侵食するアメーバー風のシンセの組み合わせが新鮮な、レゲエ調エレクトロ・ポップだ。
14FAR AWAY FROM HOME
プッシーキャット・ドールズのニコール・シャージンガーが爽涼で凛とした歌唱を披露。ウィル・アイ・アムがややニコールに寄った作風で手掛けたダンス・ポップで、ここではウィル得意のウネウネとした変態性は皆無。キャッチーな仕上がりだ。
15GHETTO GHETTO
タイトルから想起されそうな荒んだ雰囲気は一切なし。6歳のガールズ・ラッパー、ベイビー・ケーリーを起用して、微笑ましいヒップホップ・チューンに仕立てたのがその理由だ。ラストもウィルが“ハレルヤ”で締めている。制作はビー・メイジャーことメイジャー・アリ。
[Disc 2]
01REACH FOR THE STARS
海パンでの腰ふりダンスPVで話題のLMFAO「セクシー・アンド・アイ・ノウ・イット」を手掛けたオーディオボットがプロデュースをサポートしているだけに、シャウトが効いたLMFAO風のパーティ・ソング仕様。ウィルもノリノリのヴォーカルで応戦している。
02SMILE MONA LISA
1959年公開映画『黒いオルフェ』のなかで歌われた「カーニバルの朝」をサンプリングした、メランコリックなラテン・ナンバー。ボサ・ノヴァのリズムに乗せて会話のように歌い交わすウィルとニコール・シャージンガーが、実に切なくもの悲しげだ。
03BANG BANG
シェールの原曲をカヴァーしたソニー・ボノ版の「バン・バン(マイ・ベイビー・ショット・ミー・ダウン)」を拝借。だが、ジャズのフレーズ“チャールストン”を用いることで哀愁漂う雰囲気は一変。ドンドン響く重低音ボトムも現れた、ウィルらしい陽気な一曲と化した。
04GREAT TIMES
アルバム『 ウィルパワー』本編収録の「グレイト・タイムズ・アー・カミング」のダミアン・リロイ制作パートを切り出したようなトランシーなエレクトロ・ハウス。3分ほどのコンパクトな作りで、共作でない分、リロイ風のシンプルなEDMとなっている。
05SCREAM & SHOUT
ヒット・ボーイ、ワカ・フロッカ・フレイム、リル・ウェイン&ディディと豪華メンツを揃えた、ブリトニー・スピアーズ客演曲のリミックス。ブリトニーに群がるダーティな男たちといった構図で、その騒がしさとアゲっぷりに脱帽。最後はディディがクールにキメる。