ミニ・レビュー
全活動を総括するベスト盤2種の後編。ヘヴィ・ロック〜ハードコアに同期もののデジタル・ビートを組み合わせた、独自のケイオティックでメタリックなサウンドが確立されている。全曲にニュー・ミックスが施され、より輪郭のはっきりしたダイナミックな音になった。
ガイドコメント
14年に及ぶキャリアを総括した、THE MAD CAPSULE MARKETSのベスト・アルバム。スピードスター在籍時の5枚のアルバムから選曲。国内未発表音源なども収録されているのでチェック。
収録曲
01CRASH POW
のちに主流となる独自のデジタル・ハードコアに近づいてきた時期の代表曲。エレクトロ・サウンドにもこなれてきて、より濃密でディープな世界観を作り上げることに成功。瞬発力がケタ違いにアップしていることにも驚かされる。
02SYSTEMATIC.
より速いビートを追求した結果、初期のような疾走感を取り戻したファストなナンバー。テクノやブレイクビーツに接近しつつも、ざらついたハードコアの質感も健在。何度聴いても高揚できる。
03ASPHALT-BEACH
叩きつけるようなビートと横ノリのグルーヴを巧みに使い分けた緩急自在なデジタル・サウンドが波のように押し寄せてくる。タイトルから想起されるイメージをそのまま音像化したような、躍動感満点の1曲。
04DO JUSTICE TO YOURSELF DO JUSTICE TO MY LIFE
ラウドながら人懐っこく覚えやすいメロディと、思わずジャンプしたくなる軽快なノリに心が躍るナンバー。タイトルそのままのいたってシンプルなメッセージを伝えようとする、パンク魂に則った姿勢は初期から変わっていない。
05CREATURE
スローで不気味な重量級ミドルから一気に爆発し、再びミドルへ戻るという変則的なテンポの中に、遊び心たっぷりの電子音が踊るユニークな楽曲。ノンストップでテンションを上げ加速していく後半部分が最高に気持ちいい。
06TRIBE
矢継ぎ早にたたみかけるラップと硬質なギターに高速ビートが一体となった音塊は強烈だが、自由奔放に飛び回るスペイシーなサンプリングが広がりを感じさせるから重苦しくない。近未来的な雰囲気が楽しめるナンバー。
07 (PULSE)
パルス波にのってぶっ飛んでいきそうなスピード感と、親しみやすい歌メロが印象的な好ナンバー。“恐れることなく前進せよ”というメッセージもポジティヴなヴァイブに満ちていて、どんなに落ち込んでいても聴くとハイになれそうだ。
08ISLAND
軽やかな口笛まで聴こえてくるまったりとゴキゲンなサウンドは、笑顔で散歩でもしたくなるほどピースフルな空気に満ちている。と思いきや、いきなりテンションの高い爆音が顔を出すのがマッドらしい。尖った部分とルーズさが同居する不思議な1曲。
09GOOD GIRL〜Dedicated to bride 20 years after
持ち前のパンク気質に由来する、とびきりポップなメロディを軸とした爽やかなサウンドと遊び心あふれるデジタル音、尖った日本語ラップをミックス。スリリングな展開とスピード感が最高に気持ちいい。
10MIDI SURF
マッドの人気を加速させた代表曲。ノイジーなデジタル音が前面に出ているが騒々しい印象は皆無で、スピード感やキャッチーなサビに昂揚させられる。細部まで緻密に計算された曲作りはさすがだ。
11CHAOS STEP
肉感的なグルーヴと高速のブレイクビーツが絡まりあいながら猛スピードで駆け抜けていく、ドライヴ感満点のナンバー。キューブリック社製のミニ・フィギュア付きで発売された限定シングルは、プレミアがついた。
12GAGA LIFE.
近未来的エレクトロ・サウンドとジャマイカ風のトライバルなリズムの融合が面白い。ラガマフィンも意外と違和感なくなじんでおり、もはや何をやってもマッド印になってしまうことを証明した1曲といえる。
13JAM!
インダストリアル色の強いプログラミングと硬質なリフがせめぎ合うスロー・チューン。派手でも激烈でもないが、初期衝動を呼び覚ます暴力的なラップと太いグルーヴは、有無を言わせぬ説得力がある。
14雲-kumo-
広い空を漂いながら流れていく雲を思わせるゆったりとしたサウンドに、思想的ともいえる日本語詞が力強く響きわたる。彼らの楽曲の中では異色ではあるが、独特な趣のある味わい深いトラックだ。
15BIT CRUSHERRRR
サンプラーやシーケンサーは控えめで、とことん生々しくへヴィなグルーヴで押しまくる攻撃的なハード・チューン。現代社会のテクノロジーの急激な進化による弊害を歌ったと思われる、歌詞の切れ味も鋭い。
16FLY HIGH
スポーティな疾走感とジャンクなデジタル・サウンド、底なしに沈み込んでいくヘヴィ・パートも挟みながら、体を突き抜ける音の大洪水。チカチカと点滅しながら飲み込んでいく圧倒的な存在感が凄まじい。
17SCARY-Delete streamin' freq.From fear side-
急激に上昇する興奮を覚ますことなく、キャッチーというよりは茶目っ気が滲み出たメロディと出会い頭に衝突。歪んだ音を重たく感じさせない一体感、これこそポップ・ミュージック。
18W.O.R.L.D
洗練されたテクノ・ミュージックであるが、ダイナミックな躍動感も忘れていない。アジテイトするラップに込められたのは世界平和への願い。欧米ツアーを経て、彼らがいかにミュージシャンとして、人間として成長したかが分かる。
19LOUD UP!!
扇情的な爆音と歌わずにいられない耳なじみのよいコーラスを浴びせられたら、タイトルどおりじっとしてはいられないはず。ややシンプルで短い曲ではあるが、マッドの魅力が凝縮されているナンバー。