ミニ・レビュー
あの『ヤンキー・ホテル・フォックストロット』から2年ぶり! 静謐な歌と歪み軋むギターの痛みに胸引き裂かれる(1)……冒頭から揺さぶられること間違いなく、ポップ、パンク、はたまた12分近いノイズの静寂がつづく(11)……と、振幅を増しシンプルで多様。ジム・オルーク共同制作。
ガイドコメント
世界的に高い評価を得たノンサッチ移籍第1弾アルバム『ヤンキー・ホテル・フォックストロット』に続く、約2年ぶりとなるウィルコの通算5作目。より多彩なサウンドと楽曲が魅力の注目作だ。
収録曲
01AT LEAST THAT'S WHAT YOU SAID
囁くような歌声とピアノで幕を開け骨太なバンド・セッションへと転調する、躁鬱がはっきりと別れたナンバー。ひたすらダイナミックなセッションを繰り広げる後半部には歌が一切省かれているが、感情を爆発させたようなサウンドが言葉以上のことを物語っている。
02HELL IS CHROME
50年代カントリー・ブルースを思わせるサウンドに、切ない歌声が丁寧にメロディを紡いでいくメロウなナンバー。すすり泣くようなギターのリフに胸を熱くさせずにはいられない。荒涼とした音に、どことなく男の哀愁が感じられる。
03SPIDERS (KIDSMOKE)
淡々としたリズムにあわせてジャム・セッションを繰り広げる実験的なナンバー。気まぐれに鳴らされるサイケなギターが一瞬にして音の塊となり、ポップなサビを繰り出す瞬間がとにかく快感。音のせめぎ合いが、10分という長尺をまったく退屈させない。
04MUZZLE OF BEES
カントリー調のギターに乗せて柔らかいメロディが紡がれていく、軽やかな一曲。そよ風のように爽やかなサウンドも心地良いが、ギターの弦を押さえる「キュッ」という音がとても色っぽくて、初恋のような甘酸っぱさが胸一杯に広がっていく。
05HUMMINGBIRD
軽妙なピアノの音やストリングスが絡み合い、肩の力の抜けた軽やかなメロディを産み落としたポップ・ナンバー。シンプルでありながらも普遍的なサウンドは、古き良き時代のポップ・ミュージックを彷彿とさせる。
06HANDSHAKE DRUGS
反復するフレーズと詩の朗読のような淡々としたヴォーカルが、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを彷彿とさせる一曲。明確な盛り上がりはないが、徐々に凄みを増していくセッションと内面へと向かっていく詞が圧倒的な世界観を確立している。
07WISHFUL THINKING
霧のようなギター・ノイズの向こうから流れてくるメロウなメロディが、気持ちを落ち着かせてくれる鎮静剤のような一曲。彼らのポップネスが存分に発揮されているが、繊細さに磨きをかけているのはジム・オルークのプロデュースによるところが大きいだろう。
08COMPANY IN MY BACK
メランコリックなメロディを軽やかに奏でる小粒でありながらも粋なナンバー。陰鬱なヴォーカルとは裏腹に、宝石のようなきらめきを放つサウンドのバランスが絶妙で、すっと耳になじむように入り込んでくる。
09I'M A WHEEL
直訳すると「僕は車輪」というそのタイトルの通り、転がるようなロックンロールが展開されるゴツゴツとした一曲。ブルージィなメロディが適度な速度をともなって駆け抜けていくさまは「壮快」の一言だ。
10THEOLOGIANS
魂を失い、無気力な状態になった人々を「亡霊」と例え、その沈痛さを軽快なロックンロールとして打ち出したナンバー。秀逸なメロディと不安定な精神状態が渾然一体となって、独自の「鬱ポップ」なサウンドを生み出している。
11LESS THAN YOU THINK
心が洗われるような優しい歌声が聞こえていたかと思いきや、突如として10分近くにもわたり無機質なノイズが延々と流されるという、実験色が非常に強い曲。ジム・オルークお得意のノイズ・コラージュの腕が冴えわたっている。
12THE LATE GREATS
フォーキー&ブルージィなサウンドでのほほんとしたメロディが奏でられる、軽やかなナンバー。骨太なギター・リフが効いたロック然としたサウンドに、幻想的なダルシマーの音色でアクセントをつけている。
13KICKING TELEVISION
ブルース・ロックとフリーキーなセッションが入り乱れるロックンロール・ナンバー。ゴツゴツしていながらも疾走感のある荒削りでやさぐれたサウンドは、ルー・リードの影響をひしひしと感じさせる。