ミニ・レビュー
2年ぶりとなるセカンド・アルバム。“都会で生活する人々が抱える悩みや問題、彼らを取り巻く状況”を題材にした作品で、前作以上に活力のあるパワフルなサウンドとケリーの表現力豊かな歌唱によって描かれている。バンドの成長が如実に顕れた秀作。
ガイドコメント
2005年に大成功を収めたUKのロック・バンド、ブロック・パーティーの2ndアルバム。ジャックナイフ・リーをプロデューサーに迎え、さまざまなアイディアを楽曲に反映した個性豊かな作品に仕上がっている。
収録曲
01SONG FOR CLAY (DISAPPEAR HERE)
イントロに流れるケリーのファルセットに意表を突かれるが、あとはブロック・パーティーらしい疾走するギター・ロックを満喫できる出色のナンバー。ハイソサエティな生活の中に漂う倦怠感や喪失感を描いた歌詞も秀逸。
02HUNTING FOR WITCHES
アメリカの同時多発テロ以降、ロンドンでも現実のものとなったテロリズムへの恐怖心。そこからくる若者の苛立ちや焦燥感を描いた詞と80年代のニューウェイヴを思わせるサウンドの対比が、時の流れの残酷さを感じさせるロック・ナンバー。
03WAITING FOR THE 7.18
早朝の通勤電車を待ちながら、組織の歯車のひとつとして存在する今の姿に歯噛みし、今より自由だった学生時代を懐かしむ。出来ることならやり直したいと夢想する男の姿を、美しくも力感あふれるサウンドに乗せて歌うナンバー。
04THE PRAYER
ヘヴィなトライヴァル・リズムとギター・ロックをミックスしたサウンドが印象的なナンバー。みんなに注目される才能、誰よりも輝いている容姿をほしいと神様に乞い願う男の悲痛な叫びを、ケリー・オケレケが表情豊かに歌い上げている。
05UNIFORM
市場原理やテレビに代表されるマス・メディアなどの巨大なシステムに、気づかぬうちに飼い馴らされ画一化していく、若者の虚無感や失望感を描いたナンバー。怒りを込めたヴォーカルやギター・ロック・サウンドが、ズシリと胸に響く。
06ON
受け取り方によっては“ドラッグ讃歌”ともとれるナンバーだが、ケリーの思いはもちろんその逆で、ドラッグに依存する憐れな人間になるなと警告している。淡々とした前半から徐々に熱を帯びていくヴォーカルやサウンド展開も秀逸。
07WHERE IS HOME?
黒人の青年が人種差別主義者によって殺された事件を取り上げた曲。残された母親の苦しみ、警察や裁判官への不信感・憎しみなどを訴えるケリーのヴォーカルと、それを支えるパワフルかつ性急なサウンドが胸に突き刺さる。
08KREUZBERG
ベルリンにある外国人労働者や社会運動家などが住む地域“クロイツベルク”を舞台に、そこに住む青年の心象を描いた美しい曲。だが、その根底にはロンドンで暮らす黒人青年のケリー自身の、肌で感じる疎外感が横たわっている。
09I STILL REMEMBER
好きだった人との思い出を綴ったロマンティックなナンバーだが、これは男同士、いわゆるホモ・セクシャリティな関係を描いている。爽快感ともなうギター・ロック・サウンドとほろ苦さを感じさせる歌詞のコントラストが実に鮮やか。
10SUNDAY
ウィークデーを目一杯仕事に費やし、二日酔い気味で恋人と迎えるワーキング・クラス。あるいは外国人労働者の日曜の朝の少し物憂げな心情が、リズミカルなサウンドをバックに、抑え気味のヴォーカルで歌われるミディアム・チューン。
11SRXT
成長して大人になることで失うもの。多かれ、少なかれ、誰しもが感じる喪失感だが、日常生活に埋没しているとあまり考えなくなる。そんなことをいま一度考えさせるような詞を、穏やかなメロディに乗せて力強く歌っているナンバーだ。
12WE WERE LOVERS
かつての恋人とつかの間の再会を果たした時に覚える、どこに視線を合わせていいのか判らない気まずさや微妙な心の揺れ、悔恨の情。疾走するギターをバックに、そのような機微が繊細なタッチで描かれたロック・ナンバー。
13ENGLAND
ナイジェリア人の両親のもと、ロンドンで生まれたケリーがイギリスに対して抱く複雑な感情を綴った曲。かつてのU2やエコー&ザ・バニーメンを想起させる、80年代風ギター・ロック・サウンドが心地よく耳に響く。