ミニ・レビュー
デビュー10周年、約2年半ぶりの通算5作目という区切りの作品ではあるけれど、気負いとかはなく、どこまでも自然体。カントリーやルーツ・ロックを彼ら流に消化し、昇華した最高の成果がここにある。全体を貫くザラザラした感触が聴き手の想像(妄想?)を掻き立てる一枚。
ガイドコメント
2008年に全米デビューを果たし、2010年にデビュー10周年となるLOVE PSYCHEDELICOの5thアルバム。同年11月7日公開の映画『天使の恋』挿入歌「Here I am」「Beautiful days」などを収録。
収録曲
01Abbot Kinney
涼しげなアコギのカッティングから始まる、5thアルバムのオープニングを飾るタイトル・ナンバー。カントリー・ロックを基調とした明るくシンプルなサウンドとKUMIの弾んだ歌声は、LAの“アボット・キニー”を軽やかに歩く姿を想像させる。
02Beautiful days
マンドリンが艶やかに響く清々しいカントリー・サウンドをバックに、KUMIの伸びやかなヴォーカルが映える。不安のなかで“君とただbeatiful days”と願うさまが、可愛くもあり切なくもある。映画『天使の恋』挿入歌。
03Here I am
叙情的なアコギや淡く響くオルガンが懐かしい、ウエストコーストの香り漂う一曲。君との恋が終わった悲しみを、哀愁混じりのシリアスなサウンドに乗せて歌う。どこかアンニュイな歌唱は、虚しさを醸し出す詞とマッチする。映画『天使の恋』挿入歌。
04Secret crush
秘めた恋心を綴ったメランコリックなナンバー。ラップ・スティールやトレモロ・ギターのダウナーな音色とパーカッションの軽やかなリズムが対立することなく絡み合うサウンドは、君を追うかあきらめるかという複雑な気持ちを表わしているようだ。
05Shadow behind
君との想い出の影がぬぐえないでいる僕の心情を描いた一曲。ウエストコースト・ロックを思わせる憂いを帯びたサウンドが特色で、力強いギターやマンドリンが耳を引く。美しい過去を回想するような清涼感漂うサビが、かえってもの悲しさを強調している。
06I'm done
アコギ一本で奏でる哀愁たっぷりのメロディに、気だるそうな歌声を乗せたアコースティック・ナンバー。あなたを失った悲しみで、僕の心が空虚になってしまった様子を淡々と綴る。“手にとった夢は breaking”といった節回しが“デリコ”らしい。
07Hit the road
タブラやカホンといった民族音楽特有の打楽器を取り入れたカントリー・ロック。二人で光の射すこの道を歩こうと歌う前向きな詞が、気分を晴れやかにする。明るく響くアコギと弾けるクラップも爽快。アウトロのエスニック風コーラスにも注目。
08Bring down the Orion
穏やかなカントリー風のロック・ナンバー。スライド・ギターのなめらかな響きが心地よく、伸びやかなKUMIの歌声が全体に開放感を与える。気負いなく自由に音楽を楽しむ彼らのリラックスした気持ちがうかがえる。
09Happy birthday
全体にクラップを配して喜びを表現したバースデイ・ソング。カホン、コンガ、シェイカーといったさまざまなパーカッションで、カラフルに仕上げたサウンドが可愛らしい。繰り返す“Happy birthday”という言葉で心もハッピーに。
10This way
晴れ晴れとしたエモーショナルなサウンドがストレートに耳に入ってくるロック・ナンバー。“愛の唄が my job”とノリノリで歌うさまには、君に気持ちを伝える不安や怖さを感じさせないポジティヴな姿勢が見て取れる。
11Dr.Humpty Brownstone
ハンプティ・ダンプティをモチーフにした歌詞が愉快なカントリー・ロック。単調なリズムの気の抜けた陽気なサウンドに、楽しげなKUMIの歌唱とバック・コーラスが乗る。大人数で楽器を奏でながら歌う姿が目に浮かぶようだ。
12Have you ever seen the rain?
邦題「雨を見たかい」でも知られる、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)のカヴァー。軽く弾んだリズムに絡むなめらかなスライド・ギターや、浮遊感のあるオルガンが心地よい。のびのびとしたサビの歌唱では、ほんのり切なさが薫る。