ミニ・レビュー
エンヤの5年ぶり通算5作目。例によって多重録音による清冽かつ、荘厳とも言うべきアイリッシュ・テイストのヴォイス・ミュージックが見事。英語でもゲール語でもない造語“ロクシャン”を操り、従来の言語的束縛から自らを解き放っている点も新味だ。★
ガイドコメント
100万枚を突破した前作から5年ぶり、通算5枚目のオリジナル・アルバム。アイルランドの荒涼とした大自然を壮大なスケールで描いた名画のようなサウンドに乗り、唯一無比のヴォーカルを聴かせる。
収録曲
01LESS THAN A PEARL
注目はエンヤ楽曲の作詞を担当するローマ・ライアンが考え出した「ロクシャン」という造語。この不思議な響きの言語による歌詞と何度も重ねた美しいヴォーカルの組み合わせは、なんともいえない神聖な空気を放っている。
02AMARANTINE
「アマランタイン」とは詩人が“永遠の花”を語るときに使う言葉で、“永遠の愛”の意を込めて作られた曲。「アマランタイン……」という幻想的なリフレインと耽美なメロディには、深い慈愛が満ちているようだ。
03IT'S IN THE RAIN
世界中で愛される優しくて生命力のあるエンヤの歌声が前面に出た一曲。美しいオーケストラ、賛美歌風のコーラス、雨が降る世界を神秘的に描いた詞など、聴くもののイマジネーションをかきたてる創造性に富んでいる。
04IF I COULD BE WHERE YOU ARE
ストーリー性のある歌詞と荘厳なオーケストレーションは、オペラの一幕を見ているかのよう。つま弾かれるハープのやわらかな響きとエンヤの澄んだ震える歌声は、ヒーリング・ミュージックとしても最高だ。
05THE RIVER SINGS
エンヤ専属の作詞家が考案した造語「ロクシャン」で歌われる詞は、この世の“永遠”を問うたもの。言葉の不思議なリズムが呪文のように心に染みこむ、探究心あふれる一曲。
06LONG LONG JOURNEY
アルバム『アマランタイン』収録。悠久の時の流れを感じさせる雄大な歌声とオーケストラの迫力ある響きが、胸を震わせる一曲。エンヤのルーツであるケルト音楽への愛情が垣間見られる音づくりなど、工夫がいっぱいだ。
07SUMIREGUSA
「言葉の響きや意味が曲の雰囲気に一番合う」として、松尾芭蕉の俳句をもとに作られた初の日本語曲。“もののあはれ”など外国人には解釈の難しそうな言葉も、彼女の声にかかるとその意味が滲みでくるようだ。
08SOMEONE SAID GOODBYE
チェロやバイオリンといった弦楽器の音色が厳かに鳴り響く、クラッシク音楽を基盤とした曲。悲しみの感情をメロディーの源としたようなはかない旋律が、弦の響きとともに心を震わせる。アルバム『アマランタイン』収録曲。
09A MOMENT LOST
“失われた時”をかかえる心の傷を題材にした痛みがあふれる歌詞だが、心の傷を浄化する水のような澄んだなめらかなメロディが印象的。ストリングスの清らかな調べにも心癒される。アルバム『アマランタイン』収録。
10DRIFTING
ピアノとオーケストラが幻想的に展開していくクラシックなインスト曲。ここで使用される楽器すべてをエンヤ自身が演奏しているというから驚き。言葉が一切ないだけにさまざまなインスピレーションが喚起される一曲だ。
11AMID THE FALLING SNOW
雪が降りしきる夜にさまざまな思いを巡らせる様子を情景的に描いた一曲。エンヤ独特の手法である、歌声を何十回と重ねて作られるヴェールをまとったような美しいハーモニー。その迫力と美しさにただ圧倒されてしまう。
12WATER SHOWS THE HIDDEN HEART
アルバム『アマランタイン』のラストを飾る曲。エンヤ専属の作詞家による「ロクシャン」という造語で歌われるテーマは愛。ポジティヴな言葉たちでつないだファンタジックな世界には、彼女の独創性が集約されている。