ミニ・レビュー
ブッシュ政権への怒りを原動力に、扇動家セイント・ジミーの物語をテーマにしたグリーン・デイ初のコンセプト・アルバム。2曲の組曲ほか、変化に富んだ楽曲構成ながら、持ち味であるポップ・パンク・サウンドに一切のブレがない聴き応え十分の最高傑作。
ガイドコメント
これが世界に叩きつけるグリーン・デイのパンク・スピリット! 4年ぶりとなったアルバムは、間違いなくバンド史上の最高傑作。現在のアメリカへ向けたメッセージが凝縮された強力な内容だ。
収録曲
01AMERICAN IDIOT
耳なじみの良いギター・リフやコーラスなど、彼らの魅力が体現されたタイトなビートが疾走するナンバー。狂気に支配された国なんていらないと、母国アメリカにもの申す歌詞がポリティカル。“9.11”の影響が濃厚だ。
02JESUS OF SUBURBIA; JESUS OF SUBURBIA|CITY OF THE DAMNED|I DON'T CARE|DEARLY BELOVED|TALES OF ANOTHER BROKEN HOME
全長9分を超える五部構成の叙情組曲。インタールードを配するなど、各所にメリハリを付けた見事な構成は、ロックならぬパンク・オペラの様相。多彩な演奏と曲調は、ザ・フーの組曲「クイック・ワン」の影響が絶大。
03HOLIDAY
反戦を訴えた政治的ナンバーだが、強弱明快で少しスウィングしたビートで楽曲に陰りを与えるなど、音楽面での工夫にも怠りなし。反米ではなく、あくまで反ブッシュを唱える歌詞に彼らの立脚点がみえる。全米19位、全英11位。
04BOULEVARD OF BROKEN DREAMS
アルバム『アメリカン・イディオット』前曲「ホリデイ」のエンディングを引き継いだ雰囲気でスタート。楽曲の根幹はもちろんパンクだが、音楽的な部分ではロック色が前面に。ミディアム・テンポでの起承転結ある曲展開が、かなり劇的で哀切だ。
05ARE WE THE WAITING
歌詞で喪失と発見に言及されているとおり、闇から光へと転じるような力強さを持ったアンセム・ナンバー。スロー・テンポでのしっかりとした歌唱がコーラスでの大合唱を喚起。三々五々な手数のドラミングも効果大。
06ST.JIMMY
未曾有のパンク・オペラ作品『アメリカン・イディオット』における重要キャラの名を冠した曲。“1、2-1、2、3、4”のカウントで快走するハードコアな曲調が、終盤には減速し、ザ・フーの組曲作品を思わせる雰囲気になっている。
07GIVE ME NOVACAINE
アコースティック・ギターを主体に、激奏されるエレクトリック・ギターでアクセントを付けたアダージョ・ナンバー。歯痛と心痛、局部麻酔とキスを重ねたユニークな歌詞を、ここぞとばかりにスウィートに歌唱。
08SHE'S A REBEL
ニルヴァーナ版「モリーズ・リップス」(原曲はヴァセリンズ)風の小気味いいパワー・コード・ナンバー。“手榴弾みたいにハートを掴んでいる”と、歌詞には『アメリカン・イディオット』のジャケットどおりの一節が。
09EXTRAORDINARY GIRL
ビートルズ作品の要素で作り上げたようなパワー・ポップ・ナンバー。パーカッションを使ったエキゾティックなイントロ、リンゴ・スター風ドラム・ブレイク、アウトロでのシタール風サウンドなど、なかなか芸が細やか。
10LETTERBOMB
「バスケット・ケース」の系譜に連なる秀逸なポップ・パンク・ナンバーで、ビリーも『アメリカン・イディオット』でのフェイヴァリット曲に挙げている。イントロで歌う女性は、レ・ティグラのキャスリーン・ハンナ。
11WAKE ME UP WHEN SEPTEMBER ENDS
パンクの代名詞的存在として、ティーンから大人まで絶大な影響力を持つ彼らの真摯なメッセージ・ソング。今までとは違うメランコリックな音の広がり、凡百のパンクスが到底及ばない世界へと到達している。
12HOMECOMING; THE DEATH OF ST.JIMMY|EAST 12TH ST.|NOBODY LIKES YOU|ROCK AND ROLL GIRLFRIEND|WE'RE COMING HOME AGAIN
『アメリカン・イディオット』2作目となる五部構成のロック・オペラ作品。従来どおりのスタイルで演じた部分と、オペラ仕様で演じた部分との意図的な差異が楽しく、9分間の長丁場もテンションが下がることなく満喫できる。
13WHATSERNAME
『アメリカン・イディオット』で描かれた長い物語を締めくくる曲。ベース・リフが牽引する哀切な曲調が、2分過ぎからは力強くメロウな曲調に。このアルバムで体得した構成力が存分に発揮された鮮やかな幕切れに拍手。
14FAVORITE SON
反戦・反ブッシュを訴えるオムニバス作品『ロック・アゲインスト・ブッシュVol.2』に提供した楽曲。サーフ・パンク風の軽妙な曲調、中島みゆき「悪女」を思わせる冒頭のメロディなど、得がたい魅力が備わった佳曲。