ミニ・レビュー
自らの音楽を“ラブ・メタル”と形容するフィンランドの5人組のベスト。初期4作からの選曲+2曲の新録(ニール・ダイアモンドのカヴァー含む)で構成されており、メランコリックでエモーショナルな曲想はヘヴィだがクセになるキャッチーさを併せ持つ。★
ガイドコメント
1995年にフィンランドのヘルシンキで結成され、2005年のサマーソニックに来日し話題を呼んだロック・バンドのRCA時代の音源をまとめたベスト・アルバム。メタル、ゴシックやポップなどが融合したメロディアスなロックが聴ける。
収録曲
01AND LOVE SAID NO
北欧ならではのダークで耽美的な雰囲気、80年代メタル直系のアグレッション、分かりやすいキャッチーなメロディ、お色気全開のヴォイスが融合した、HIMらしい楽曲。ベスト盤『アンド・ラヴ・セッド・ノー〜』のみに収録されている。
02JOIN ME
美しいピアノのイントロに導かれて始まるメランコリックなナンバーで、儚げな歌唱と物悲しい旋律が舞い散る雪を思わせる。映画『バイオハザード2 アポカリプティカ』のサントラに収録され、日本でもファン層を拡大した。
03BURIED ALIVE BY LOVE
へヴィなリフでがんがん攻め立てる、ロック・テイストを前面に出したナンバー。スピード感もあって非常にノリがよい。特にサビの急き立てるようなビートとパワフルな歌唱は高揚感たっぷり。拳をふりあげてシンガロングせずにはいられない。
04HEARTACHE EVERY MOMENT
シンプルながら誰もが口ずさめる親しみやすいメロディを擁した楽曲は、普遍性の高いポピュラー・ミュージックとしても十分機能する。彼らがフィンランドで国民的人気を誇るバンドであるのもこういう名曲があるからだろう。
05SOLITARY MAN
ニール・ダイアモンドのカヴァーというチョイスが幅広い音楽的背景を物語る、アルバム未収録曲。どこか退廃的だったり、囁いたリとヴァラエティ豊かなヴィレのヴォーカリゼーションは、孤独な男の心象風景を巧みに表現している。
06RIGHT HERE IN MY ARMS
ストーリー性の高い歌詞の世界観を、情感たっぷりに歌いあげる甘く深みのあるロウ・ヴォイスと物悲しく美しいメロディが印象的なナンバー。ゴシック色が強いが、メロディはハンドクラップしながら口ずさめるほどキャッチーで親しみやすい。
07THE FUNERAL OF HEARTS
北欧の寒い冬を想起させる寒々しくも美しい名バラード。琴線に触れる哀愁の旋律とファルセットを絡ませた歌声が涙線を緩ませる。この曲をきっかけに彼らにハマったというファンも少なくない、HIMの代表曲。
08IN JOY AND SORROW
絶望的な世を憂う悲しみに満ちた心中が描かれており、いつもより淡々とした感情抑え目の低くディープなヴォーカルが新鮮。決して派手さはないが、ストリングスが効果的に配されたサウンドも非常に美しい。じっくりと味わいたい楽曲である。
09YOUR SWEET 666
高音と低音を自在に使いわけた、絡みつくようなねっとりした歌唱法が個性的なミドル・チューン。ゴシック色の強いダークでへヴィなサウンドの中に繊細な美しさを纏ったメロディが、甘く切なく胸を打つ。
10GONE WITH THE SIN
低く響く歌声とシンセサイザーの神秘的な音色が印象的なイントロから、一気にシアトリカルな世界へ引き込まれるダークなナンバー。独特の湿り気を帯びた雰囲気がなんとも味わい深く、彼らがゴス・ファンに愛される理由がよく分かる。
11WICKED GAME
初期からプレイされ続けていて、ヴィレのお気に入りでもある、クリス・アイザックのカヴァー。全米進出のきっかけとなった初の大ヒット・シングルで、彼らにとって大切な1曲。日本ではTV-CMでも使用され、話題となった。
12THE SACRAMENT
雪の結晶を彷彿とさせるピアノの音が印象的な、ロマンティックなトラック。クラシカルで優美な空気を漂わせつつも、キャッチーなメロディとリフレインが盛り込まれており、ソングライティング力の高さに唸らされる。
13CLOSE TO THE FLAME
祈りにも似た囁くようなヴォーカルと郷愁を誘うもの悲しい旋律を軸としたこの曲は、噛めば噛むほど味が出る佳曲。じっくり向き合えば、泣きたくなるほど情感豊かなセンチメンタリズムが感じられるはずだ。
14POISON GIRL
扇情的なギターを効果的に配した、へヴィでダークなゴシック・テイストのナンバー。男女間の愛憎劇を描いたナイーヴかつ破壊的なリリックの世界観がドラマティックに描かれており、映画感覚で楽しめる。
15PRETENDING
息遣いまでリアルに聴こえる、やたらエロティックなヴィレ節から放たれるフェロモンにクラクラ。叶わぬ想いを綴った悲しい恋の唄だ。メタル然とした激しさの中に漂う、湿り気を帯びた叙情的なメロディと妖艶なムードは“ラヴ・メタル”ならでは。
16WHEN LOVE AND DEATH EMBRACE
シンセの素朴でドリーミーな音色と心癒すソフトな歌声が、まるでふんわりした雲に乗っているかのような心地よい浮遊感を与えてくれる。目を閉じて身を委ね、うっとりと陶酔したい名バラード。