ガイドコメント
フォークからフォーク・ロックへ向かう過剰期に制作され、それまでのプロテスト・シンガーのイメージから脱却し、新たな局面を見せた4作目。1964年作品。
収録曲
01ALL I REALLY WANT TO DO
フォーク・ロック時代の到来を予感させる1964年の名曲。生ギターの弾き語りだが、もはやプロテスト歌手ではないディランがここにはいる。珍しく裏声を使った歌声は、敬愛するジミー“ブルー・ヨーデル”ロジャースへのオマージュか。
02BLACK CROW BLUES
自身が弾いたホンキー・トンク調のピアノをバックに歌われるオリジナル・ブルース曲。カラスにつつかれる案山子になったような気分が歌われているが、最後には「今日は案山子みたいな気分じゃない」と突き放している。フォーク信奉者への訣別の歌だろうか。
03SPANISH HARLEM INCIDENT
性的な比喩を満載した曲。フォークというよりもむしろロックに近い感覚の曲でもある。ディランのロック化はすでに始まっていた。1年後のディランなら間違いなくロック・アレンジでプレイしていたはずだが、翌年にはザ・バーズがフォーク・ロック化している。
04CHIMES OF FREEDOM
ディランらしいメロディと歌詞との絶妙の組み合わせが美しいバラード。天から舞い降りたかのような言葉たちが煌めいている。この美しさはプロテスト・ソングの枠組みから大きく逸脱している。
05I SHALL BE FREE-NO.10
ウディ・ガスリー譲りのトーキング・ブルース・スタイルによる曲。即興的な言葉の奔流が楽しめる「アイ・シャル・ビー・フリー」の続編だが、前者よりもやや政治的でより詩的でもある。カシアス・クレイとバリー・ゴールドウォーターの名前が時代を感じさせる。
06TO RAMONA
天啓のような閃きに満ちたラブ・バラードの名曲。公民権運動に参加している若者たちについて歌ったものなどといわれているが、そんなことよりもこのメロディと歌詞との奇跡的な組み合わせをひたすら堪能したい。初期のディランが生んだ完璧な歌のひとつ。
07MOTORPSYCHO NITEMARE
アコギの弾き語りによるロック・チューン。ディランのヴォーカルはトーキング・ブルースの限界を超えてラップに近いところまで暴走し、背後にはノイジィなロック・サウンドが幻聴のごとく鳴り響いている。映画『甘い生活』やフィデル・カストロが登場する歌詞も面白い。
08MY BACK PAGES
秀逸な歌詞と印象的なメロディを持つ1964年の名曲。「あの頃の僕は今よりずっと老けていて/今はあの頃よりずっと若い」という歌詞も素晴らしい。ポップ・ソングのシンガー/ソングライターとしての彼の才能を改めて思い知らせる1曲。
09I DON'T BELIEVE YOU
アコギの弾き語りによるロック・チューン。強力なメロディと歌詞がエレクトリック・サウンドとロック・ビートを要求し、愛と皮肉に満ちたその歌声はジョン・レノンのそれと酷似している。名唱による名曲。2年後の英国ツアーでの激烈なロック・ヴァージョンも良い。
10BALLAD IN PLAIN D
恋人スーズ・ロトロとの別離の“真相”を歌ったバラード。ここでは彼女の姉が悪者になっている。秀逸なメロディと歌詞による曲を見事に歌ってみせるディランの、シンガーとしての実力を改めて思いしらされる名演。最後の“空路の鎖”の一節も効いている。
11IT AIN'T ME BABE
恋人スージー・ロトロとの破局を迎えた時期のディランが書いた曲。「あんたが探している男は俺じゃない」という歌詞の一節はプロテスト歌手からの脱却を意味しているとも解釈された。その後のフォーク・ロック時代を予感させる曲でもある。