ガイドコメント
“90年代のKISS”と大きく注目を浴び、初登場で全米No.3に輝いた96年の大出世作。トレント・レズナーのプロデュースで全体にキャッチーで分かりやすく、「ザ・ビューティフル・ピープル」などヘヴィでありながら明解なサウンドが印象的。
収録曲
01イレスポンシブル・ヘイト・アンセム
ノイジーで攻撃的なサウンドにアメリカ社会への嫌悪感を剥き出しにしたリリックをのせた、タイトルどおりのヘイト・アンセム。「F××K」と連呼する殺気立ったシャウトに、マリリンの本気がにじんでいる。
02ザ・ビューティフル・ピープル
03ドライド・アップ、タイド・アンド・デッド・トゥ・ザ・ワールド
エレクトロを大胆に施したインダストリアル色の強いサウンドが、退廃的な空気を漂わせるダークなナンバー。本作収録アルバム『アンチクライスト〜』のプロデュースを手掛けたナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーの色が濃厚に出ている。
04トゥーニキット
激しく叫びながらも哀しみや苦しみをたたえたヴォーカルと、ノイジーで退廃的なギターの旋律が狂気じみた病める世界を作りあげている。マリリンの心の痛みが聴き手の心に染みるエモーショナルなナンバー。
05リトル・ホーン
ディストーション・ギターのキレのよいリフと叩きつけるような手数の多いドラムがクール。サイバーなサンプリングやキーボードも主張しているが、アルバム『アンチクライスト〜』の中ではロック的なカタルシスが味わえるダイナミックな1曲だ。
06クリプトオーキッド
虐待に苦しむ心の闇を描いた、前半の不気味なサンプリングやエフェクトを配したダークで無機質なサウンド。後半は、心臓の鼓動のような音と賛美歌めいたコーラスが絡む荘厳な雰囲気で、救済の祈りを表現。マリリン自身の経験をリアルに反映した楽曲だ。
07デフォーモグラフィー
不穏なサウンドと何層にも重なった歌声が、グロテスクでカオティックな世界観を描くヘヴィなインダストリアル・ナンバー。ソングライティングの段階からトレント・レズナーが参加というのも納得の出来だ。
08ウォームボーイ
ダルでファニーなサウンドと人を喰ったようなヴォーカルが醸し出すエロティックな空気は、まるで見世物小屋のよう。B級の安っぽさと一級のエンタテインメント性が同居するミラクルなナンバー。
09ミスター・スーパースター
全体にメロディアスでリズムもノリやすく、キャッチーな印象だが、実は尖ったヴォーカルやディストーション・ギターにはけれんみたっぷり。スターへの嫌悪と憎悪をあらわにした反逆ソングだ。
10エンジェル・ウィズ・ザ・スキャブド・ウィングス
トラウマによってねじられて病んでしまったマリリン自身の心を映した曲。何かに憑かれたような偏執狂的な歌とある意味トライバルともいえる躍動的なリズムという、普通なら相反しかねない要素を融合した個性的な1曲。
11カインダーフェルド
過去に受けた精神的な傷をさらけ出した自虐的な歌詞と不穏なノイズや不協和音に彩られた音が、聴き手を深い闇へと引きずりこむ。あまりにストレートに内面を吐露した歌唱は、当時、コーンのジョナサン・デイヴィスとも比較された。
12アンチクライスト・スーパースター
ナチス式敬礼を思わせる叫びで幕を開けるアルバム表題曲。反キリストを公然とアピールし、マリリン・マンソンを世紀末の堕天使から米国最大のヒールの座へ君臨させた。非難の声も上がったが、強烈なメッセージは多くのキッズを惹きつけた。
131996
本作の発表年をタイトルとした、高らかなアンチ宣言。人類、思想、感情、神、世界と、すべてを否定したあげく、己にさえも牙を剥く破壊衝動に満ちたナンバー。そんなファストでアグレッシヴなロックに煽情された人、多数。
14ミニット・オブ・ディケイ
凶暴でノイズにまみれた音の中に、やるせなさや底なしの哀しみがうごめくディープな1曲。孤独や周囲からの拒絶にさいなまれ続ける心の痛みを伝える、マリリン渾身の叫びに耳を傾けろ!
15ザ・リフレクティング・ゴッド
執拗に繰り返される「射て、射て」という叫びと重厚なリフが、もの凄い重圧感で迫るへヴィな曲。しかしライヴ風に観客のざわめきが挿入されていたり、つぶやくような歌声に変化する希望と絶望が交錯する音像には、混沌とした心象風景が見える。
16マン・ザット・ユー・フィアー
優しく儚げなピアノの音と搾り出すような狂おしい声が退廃的で美しい、ゴシック調のスロー・ナンバー。奇妙なノイズやフィードバックにまみれてフェイド・アウトする終わり方が、もの悲しい余韻を残す。