ミニ・レビュー
約4年ぶりとなる通算12作目。前作はメロウすぎた感もあった彼らだが、今作は歪んだギターが唸るエッジの利いたサウンド。もちろんウェイン・コリンの持つ抜群のメロディ・センスは健在で、飽くなき実験精神とのバランスが最良の形で保たれている。
ガイドコメント
常に実験的な作品を生み出すフレーミング・リップスの7枚目となるアルバム。本作のテーマは“生の尊厳”と“反戦/反ブッシュ”。こんな重みのあるテーマをドリーミーなポップ・サウンドで表現してしまえるのはさすが。
収録曲
01YEAH YEAH YEAH SONG (WITH ALL YOUR POWER)
「スイッチひとつで世界を吹き飛ばせたら君はそうする?」と歌い権力者を揶揄。同時に、「自分がその立場なら?」との自問も忘れない。こんな深いテーマを軽やかではつらつとしたポップ・ソングに昇華した批評性が鮮やか。
02FREE RADICALS (A HALLUCINATION OF THE CHRISTMAS SKELETON PLEADING WITH A SUICIDE BOMBER)
声質はニール・ヤング系のウェインが、プリンスが憑依したようなファルセットで歌うファンク・ナンバー。夢の中で見た“自爆犯を説得するデヴェンドラ・バンハート”に触発され書き上げた曲だとか。すごい夢……。
03THE SOUND OF FAILURE/IT'S DARK...IS IT ALWAYS THIS DARK??
親友を亡くした若い女性が主人公のMOR風ポップ・ソング。悲しみに暮れる彼女の耳に、日本で言うところの有線放送から流れてくる能天気なヒット曲。その不快さを巡る考察が、組曲のように鮮やかな展開で巡らされる。
04MY COSMIC AUTUMN REBELLION (THE INNER LIFE AS BLAZING SHIELD OF DEFIANCE AND OPTIMISM AS CELESTIAL SPEAR OF ACTION)
「しくじりの音」で描かれた死についての考察に対する、答えらしきものが提示される地続きナンバー。曲の雰囲気も、組曲のような構成だった「しくじり〜」の終幕部を務めるかのように、最後に感動的な幕切れが訪れる。
05VEIN OF STARS
ウェインいわく「人類はいかにして他の星々から見捨てられたかを宇宙的に歌ってみた」という、ロマンティックな曲。誰もいない宇宙空間をふわふわ漂っている気分を演出したワウ・ギターなど、なるほど宇宙的サウンドが楽しめる。
06THE WIZARD TURNS ON... THE GIANT SILVER FLASHLIGHT AND PUTS ON HIS WEREWOLF MOCCASINS
ベース、ピアノ、そして“CDプレイヤーによるドラム音”で繰り広げられる異色セッション。そんな奇妙な音源も“魔術師”デイヴ・フリッドマンにかかれば、瞬時にトリッピーなピンク・フロイド風世界へと変貌。お見事。
07IT OVERTAKES ME/THE STARS ARE SO BIG...I AM SO SMALL...DO I STAND A CHACE?
彼らの出自がガレージ・バンドであることを思い出させてくれるローファイ・ナンバー。グウェン・ステファニーに提供すると仮定して作られた曲らしいが、聴き方次第ではファンカデリックのようなファンクな味わいも。
08MR.AMBULANCE DRIVER
サイレン音が不穏なムードを演出するポップ・ナンバー。生死をさまよう女性の搬送に付き添う主人公が、救急車の中で人間の生死について考えている。柔らかいメロディと歌声が不思議と力強くソウルフルに感じられる。
09HAVEN'T GOT A CLUE
友人クレイグ・カースティンが作った曲を彼らが好き放題にいじり倒した迷宮ポップ・ソング。政治家を非難するだけでなく、“何も分かっちゃいない”のは自分かも? との自問も忘れないあたりが、いかにもリップス。
10THE W.A.N.D.(THE WILL ALWAYS NEGATES DEFEAT)
音楽そのものに世界を変える力はないと自覚する彼らが、それでもあえて歌ってみせた爆音プロテスト・ソング。作者のウェインいわく「ブラック・サバス×スライ&ザ・ファミリー・ストーン」。う〜む、なんてたとえ上手。
11ポンペイの黄昏- POMPEII AM GヨTTERDトMMERUNG -
93年にリップスに加わったスティーヴン・ドローズが、初めてリード・ヴォーカルを担当した歴史的一曲。火山に心中しようとする主人公の逡巡が描かれた歌詞を、神々しく壮大なサウンドをバックに歌い上げている。
12GOIN' ON
“痛みをともなう改革”とは似て非なるポジティヴな観点から、受け入れて進むんだと唱える美メロ・ナンバー。シリアスなメッセージを歌う一方で、♪アハァーンとヒップホップをパロった合いの手を盛り込むセンスが最高。
13THE GOLD IN THE MOUNTAIN OF OUR MADNESS
シンプルなリズム・パターンが淡々と繰り返される地味な曲調。それが、1分半過ぎに訪れるドラムのフィルインを境に、心地よくビートリッシュなポップ・ナンバーへと場面転換。柔らかなハーモニーも魅力的な佳曲だ。