ミニ・レビュー
島田昌典の手になるリチャード・ティーばりのピアノが弾けまくる「beat」以下、aikoの9枚目のアルバムはノリがいい。西川進や佐野康夫、美久月千春らの演奏はキレ味抜群。シングルの「KissHug」以下、実は複雑な構造を持っていながら、まったくそう感じさせないaikoマジックが全編で炸裂。★
ガイドコメント
前作『秘密』から約2年ぶりとなる9thアルバム。「戻れない明日」、ブリヂストンサイクル「アルベルト」CMソング「milk」、映画『花より男子ファイナル』挿入歌「KissHug」、CD初収録となる「あの子の夢」などの話題曲が目白押し。
収録曲
01beat
楽しげに弾ける鍵盤とともに幕を開けるアップ・ナンバー。あなたを愛おしく想う気持ちを歌唱とピアノに乗り移らせながら、嬉しさでドキドキする鼓動(=beat)を表現。“水平線が見えた”ことを優しい世界の始まりとした詞世界がたまらなくキュート。
02鏡
男目線と“俺”口調の詞が楽しいミディアム・ポップ。家を出ていく彼女を“ガン見”で見届ける男の心境を綴るが、元来ロマンティックなaikoが歌うと女よりもロマンチストと言われる男の気持ちがより鮮明に。甘酸っぱく切ないストーリーだ。
03milk
ホーンとともに彩るンチャッンチャッというリズムで展開するファンキー・ジャズ風ポップ。触れられそうでできない絶妙な距離感の描写は、さすが恋歌姫aikoといったところ。トキメキに心躍る気持ちを綴った、ブリヂストン「アルベルト」CM起用の25thシングル。
04KissHug
物憂げで甘酸っぱいaikoスタンダードともいえる旋律が琴線に触れるミッド。印象的な“夏髪が頬を切る”から“ゆらゆら”とも聴こえる切なくも優しいサビ終わりまでが特に出色。恋の終わりをイメージした、映画『花より男子ファイナル』挿入歌起用の24thシングル。
05夏が帰る
永遠に君を好きでいたいというやまない感情を綴るナンバー。君に逢った日はいつも最後のよう、の悲しげな詞も、鍵盤が牽引する夏の青空と海を想起させる爽やかなサウンドが幸福感へと昇華。ラストの“お願い”の歌唱が耳に残る、ブリヂストン「アルベルト」CMソング。
06リズム
あたしを変えてくれた今年の夏の境目……大切な人と出会えた幸せな想いを噛みしめるように歌う。弾けた気持ちを綴りながらも、じわじわと浸透するようなゆったりめのリズムが心地よい。“初めて袖を通したTシャツ”など、愛らしい言葉選びはaikoならでは。
07嘆きのキス
あたしが主人公となる詞が多いaikoが“僕”目線で語ったたおやかなミッド。失っても想い続けることが今を支える糧なんだと、切なくも意を決したように歌う。『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル エコーズ・オブ・タイム』タイアップの25thシングル。
08より道
18thシングル「キラキラ」収録の弾き語り曲をロック調にリアレンジ。リズム隊がバックアップすることで、失う悲しみに比べれば想う苦しみは幸せなより道というフレーズもよりポジティヴに伝わる。可憐な口調ながら愛への欲求が盛大に描かれたaikoらしい恋の歌だ。
09指先
悲しい恋の終焉を冷たくなっていく指先で知ると綴った失恋物語。流麗な鍵盤で幕を開けるも、急かすように進むリズム隊の明朗なサウンドと詞世界のギャップが、かえって切なさを突きつける。“間違いなんて何処にもなかった”と言い切るラストに、女の意地がチラリ。
10Yellow
鍵盤とストリングスの凛としたバックを添えた切ないミディアム・バラード。別れてもまだ互いに気になる二人の心情を、女性目線から綴る。以前のように話す二人に、恋人同士だった時の面影がよぎる……と熱っぽく歌うaikoが印象的だ。
11戻れない明日
想い出は美しいけれど、切なくさせる。明日への答えに悩むけれど、隣で一緒に笑っていたい……という健気で可憐な女性をaikoが熱演。平凡ゆえに共感を生む詞世界が秀逸な、ドラマティックなミッド。日本テレビ系ドラマ『曲げられない女』主題歌の26thシングル。
12あの子の夢
倉科カナ主演のNHK連続テレビ小説『ウェルかめ』主題歌。季節は巡り、過ぎる時。周囲の雑音にも悩まされながら、夢へ向かって少しずつ前向きに歩いていく女子の感情を綴る。甘酸っぱさに満ちたサウンドが、青春モードへと走らせてくれる。
13ヒカリ
あなたにもらった一言がいつまでもずっと一筋の光になって励まされ続けるという、胸の内を吐露する情感あふれる歌唱に愛着が沸く。グルーヴィなギター使いと高揚を誘うホーンが印象的な、スピード感あるノスタルジックなポップ・チューンだ。
14トンネル
車でトンネルを走る時の心風景が描かれたミディアム・スロー。出口までの距離が分かるトンネルとそれが見えない心……。まっすぐ続くトンネルの道で待っていたかけがえない相手の優しさに触れながら、じんわりと包み込むような温かい歌唱で涙を誘う。