ガイドコメント
トム・クルーズなどが出演し話題を呼んだ映画『マグノリア』。そのサウンドトラックを担当した女性アーティスト、エイミー・マンのサード・アルバム。クリップ映像付き。
収録曲
01HOW AM I DIFFERENT
楽器の鳴りやメロディにビートリッシュなセンスが強く感じられるジョン・ブライオンとの共作ポップ・ソング。出て行かんとする恋人に語りかけるように問い詰める歌詞は、以降の彼女の作品にも用いられる舞台設定だ。
02NOTHING IS GOOD ENOUGH
映画『マグノリア』に提供したインスト曲に新たに歌詞を付けた改変版。「どこまでも満足しないのね」と相手を非難する主人公もまた不満を抱いている、二重構造の歌詞が面白い。歌詞の辛辣さに反してテンポはゆるやか。
03RED VINES
ポール・トーマス・アンダーソンが彼女の曲を評して言う“前に聴いた気になる”の典型的一例に挙げられそうな、過去から未来がやって来る不思議な感触のポップ・ソング。曲題は米国のポピュラーなスナック菓子の名称。
04THE FALL OF THE WORLD'S OWN OPTIMIST
エルヴィス・コステロとの未発表に終わった共作曲「ワールズ・グレイト・オプティミスト」をよりシニカルな歌詞へと改変。ビートルズ作品からやるせなさを抽出して再構築したような編曲に秀抜なセンスが感じられる。
05SATELLITE
別れの経験が豊富すぎる彼女ならではの別れの予感を先回りしすぎたラヴ・ソング。エイミー得意の3拍子リズムを用いた曲で、勇壮なティンパニーや小気味よいピチカートも小技で利いている。歌詞の凝った押韻もお見事。
06DEATHLY
ポール・トーマス・アンダーソン監督に映画『マグノリア』(99年)を着想させた曲で、冒頭の歌詞は劇中の台詞にも使われている。過去の優れたポップ・ソングのエッセンスが苦味と浮遊感をともなった曲調の中で見事に発酵している。
07GHOST WORLD
のちに映画版も製作されたダニエル・クロウズのコミック『ゴーストワールド』(98年)に共感した彼女が、作品の世界観を楽曲化。自分の将来を見出せないティーンエイジャーの感情の揺れが繊細な描写で表現されている。
08CALLING IT QUITS
エルヴィス・コステロの世界に通じる知的でジャジィな雰囲気のポップ・ソング。彼女に自主レーベル“スーパー・エゴ”を設立するに至らせたメジャー・レーベルとのいさかいが、気の利いた比喩表現でシニカルに描かれる。
09SUSAN
女友達に一方的な愚痴を述べているような曲。微妙に趣の異なるメロディが滑らかに繋ぎ合わさった優雅なポップ・ソングだ。自らの演奏を“バッド・ハイハット”と自嘲的にクレジットするチャーミングな一面も披露。
10BACKFIRE
カラフルにデコレーションされた軽妙で良質のポップ・ソング。恋を雪山登山になぞらえたユーモラスな歌詞に、彼女の秀抜な作家性の一端が。出番は少なめながら、客演のグレン・ティルブルックが存在感ある歌声を披露している。
11IT TAKES ALL KINDS
親愛なる友人への的確な批評を並べたメロディアスな曲。歌詞にも名前が登場しているバート・バカラックの世界に通じるドリーミーでスタンダードな趣。知る人ぞ知る元グレイズのバディ・ジャッジが歌唱で客演。
12SAVE ME
スタンダードな風格さえ漂わせた陰りあるメロディと思索に富んだ知的な歌詞を、ビートリッシュなサウンドで演じ上げた映画『マグノリア』提供曲。グラミー賞複数部門にノミネートされ、彼女の知名度は飛躍的に向上した。
13JUST LIKE ANYONE
1分30秒にも満たないアコースティック・ギター主体の弾き語り風作品。言葉を凝縮した短い歌詞から、彼女が抱えた不安がぷかりと浮かんでくるよう。アコーディオンやヴァイオリンの音色が何ともセンチメンタルだ。
14YOU DO
映画『マグノリア』のサウンドトラックとして提供された美しく静謐な一曲。包み込むような穏やかな声音で、“だめんずうぉーかー”な女友達への恋のアドバイスを展開。愛夫マイケル・ペンがゲストでギターをプレイしている。