ミニ・レビュー
ワシントンDC出身、22歳のシンガーのデビュー作。マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハサウェイ、アル・グリーンからJODECI、2パック、ジェイ・Zまでを好むスタンスが反映された序盤とボーナス曲が良いが、ほかはせっかくの良さを活かす曲がちょっと少ない。
ガイドコメント
魅惑のファルセット・ヴォイスで全米を虜にしているR&Bシンガー、J.ホリデイの2007年11月発表のアルバム。オーセンティックなソウルとヒップホップを絶妙にブレンドした世界を展開している。
収録曲
01BACK OF MY LAC'
歯切れの良い16ビートをベース、シンセ、ギターで、できるだけ控えめに洗練していったら、こんなサウンドになる。このクールさがブラック・ミュージックのカッコ良さなんだ、と気付かせてくれる曲だ。聴いているだけで心を遠くへ飛ばしてくれる。
02GHETTO
歪んだギター・サウンドがつやっぽく絡み合う濃いR&B。多彩にアレンジされたヴォーカルは、聴くことを休ませないほどの迫力だ。奥行きの深いサウンドは、ノスタルジックなアプローチが時折顔を出す、オールド・ファンも納得の出来だ。
03THUG COMMANDMENTS
ピアノが癒してくれる古い温かみのあるR&B。完成度の高いトラックをバックに縦横無尽に歌うJ.ホリデイは、何とも楽しそうだ。ドラマティックスの「SAY THE WORD」の流用などをまったく気にさせない新鮮さがある。
04BED
R&Bの美しい進化形は至上の切なさを運んでくる。気持ちが射し込んでくるようなこの曲の大ヒットには、誰もが納得するだろう。計算し尽くされたように演奏と歌唱が溶け合い、からみ合っていく。文句のつけようがない完成度を誇る作品だ。
05BETCHA NEVER HAD
ヒットメイカー、ショーン・ギャレットが、アッシャーやビヨンセのプロデュースでみせた腕前を存分に発揮している作品。派手なつくりではないが、ツボをおさえたゆったりしたR&Bに仕上げている。自在に揺れるJ.ホリデイの不思議な声は、とても贅沢だ。
06LAA LAA
90年代のコンテンポラリーR&Bの雰囲気が漂う落ち着いた作品。バスドラに絡みつく野太いベース・ラインがどぎつく響く。音符の幅を余すことなく声で満たすようなヴォーカルは、豊かな抑揚を持って心地よく耳をくすぐる。
07COME HERE
舞うようなシンセと重低音が耳にまとわりついてくる、ダビーで艶っぽい作品。ヴォーカルは包容力にあふれており、ウィスパーにしてこの声量は圧巻。歌がリスナーの体に染み込んでいくようなサウンドだ。染み込むだけでなく、体がうねってしまうかもしれない。
08BE WITH ME
マイケル・ジャクソン、デスティニーズ・チャイルドらとの仕事で名高いロドニー・ジャーキンスのプロデュース作品。揺れるファルセットがたまらない歌唱は、世界最高水準だ。高品質で重厚なストリングスとともに、聴き手を釘付けにする。
09SUFFOCATE
リアーナ、ブリトニー・スピアーズらを手がける歌姫製造機のクリストファー“トリッキー”スチュアートのプロデュース作品。女の子っぽいR&Bバラードだが、J.ホリデイの性別を軽く超える歌唱の幅広さに感服してしまう。
10FATAL
心の奥底に染み込んでいくようなメランコリックな作品。やさしいメロディを最大限にやさしく歌う方法が存分に楽しめる。ラヴ・ソングにはやっぱりシンプルなリリックが一番合うと再確認させてくれる。定番「I MISS YOU」が映える曲だ。
11WITHOUT YOU
カーペンターズで知られる「遥かなる影」の、アイザック・ヘイズのカヴァー・ヴァージョンをサンプリングした作品。ソウルフルなアレンジで、原曲の原型はとどめていない。古いところからいただいていても、それを感じさせない新鮮なサウンドだ。
12PIMP IN ME
クリスティーナ・ミリアン、シアラらを手掛けるジャスパー・キャメロンのプロデュース作品。シリアスなメロディで歌われるのは切ない愛の告白。多彩なヴォーカリゼーションが曲を低い温度で燃え上がらせる、情熱的なサウンドだ。
13THANK YOU
ゆったりしたイントロに緊張感あふれるリズムが突っ込んでいく、ドラマティックな作品。迫りくるシンセ・ベースがメリハリよく胸に響いてくる。曲の世界に入り込んでしまうことは必至。J.ホリデイにこんなメロウな曲を歌わせたら危険だ。
14FALLIN'
メアリー・J.ブライジ、ジュエルズ・サンタナらを手がけるJ.U.S.T.I.C.Eリーグが変則サウンドで楽しませてくれる。ブルース・ギターが大活躍する作品だが、まったく泥臭くなく、洗練された雰囲気で覆われている。力強いヴォーカルもお忘れなく。
15CITY BOY
ピッチ・コントロールが施されたコーラスが楽しいコミカル・ソング。メンフィスの大御所ラップ・コンビ、8 BALL&MJGが参加しており、彼らの楽しいサウンドにクールに切り込むパフォーマンスはさすが。ステップを踏んで楽しみたい作品だ。
16GOOD FOR EACH OTHER
ハイトーンに加工されたフックがキャッチーなシャッフル・ビート。ホーン・フレーズといい、歌メロといい、古いR&Bからたくさんいただいている癒しサウンドだ。穏やかに体を揺らすのに最適なビートといえる、気の利いた一曲。