ミニ・レビュー
4年ぶり3枚目は、2枚組、ボーナス・トラックも含めて全23曲。ジャズ、ソウル、ブルースなど1920年から1940年代に全盛だったビンテージ音楽を現代によみがえらせた。DJプレミアや前作からコラボするリンダ・ペリーらをプロデューサーに迎え、持てる実力を出し切った力作。
ガイドコメント
99年にデビューし、以来4度のグラミー賞受賞を果たしたスーパースター、クリティーナ・アギレラの4年ぶりとなるアルバム。DJプレミアを迎えたシングルをはじめ、リンダ・ペリーとのコラボレーションも聴ける。
収録曲
[Disc 1]
01INTRO (BACK TO BASICS)
バック・トゥ・ベーシックス=「原点回帰」をテーマに、大好きな1920〜40年代の音楽をプレイできる喜びを楽曲にも盛り込んだ、ミディアム・スロー・ナンバー。だが過剰過ぎないスクラッチなど、その解釈はあくまでも今風のアプローチだ。
02MAKES ME WANNA PRAY
アギレラのパワフルなヴォーカルが遺憾なく発揮された、ライヴで盛り上がりそうな強力なファンキー・チューン。オルガンの音色やゴスペル・コーラスは、「ワナ・プレイ(pray)」のタイトルにふさわしい崇高さを放っている。
03BACK IN THE DAY
あの日に戻って、オールド・スクールのグルーヴを……と歌っているものの、ここで歌詞に織り込まれたアーティストたちに捧げられるリスペクトは、決して懐古趣味にとどまらない。ラップのサンプリングなど、その解釈は現代的だ。
04AIN'T NO OTHER MAN
アルバム『バック・トゥ・ベーシックス』の先行シングルとしてリリースされた、一人の男に対する熱烈な思いを綴った、アップ・テンポなラブ・ソング。古きジャズの香りがするホーンとリズム・ボックスによるアップ・デートな現代流のビートが絶妙にマッチ。
05UNDERSTAND
失望の果てに、ただ一人の人に出会えたと気づいた女性の心情を歌う、スタンダード・ジャズの要素をちりばめたムード満点のスロー・バラード。音作りにはほどよい軽さがあり、白人らしい線の細さのあるヴォーカルが心地良い。
06SLOW DOWN BABY
気のない男に言い寄られ、なかば呆れながらあしらう大人の女をクールに歌うR&B調ナンバー。男性のラッパーによるライミングが絡んだ現代風のサウンド・プロデュースだが、ホーン・アレンジなどどこか気だるく、レトロな趣も含んでいる。
07OH MOTHER
“結婚後に豹変した男の態度に苦しむ日々は、もう思い出さなくていい”という母親に宛てた詞が痛々しく響く。後半のストリングスによるクライマックスまでを淡々と紡ぐ、ピアノと乾いたリズム・ボックスのビートがストイックに感じられるナンバー。
08F.U.S.S.
アギレラがそれまで仕事をしていたある人物を“ディスリスペクトしている”という衝撃的な告白が注目のナンバー。流麗なピアノで始まり、曲の終わりまで半音階的マイナー調に進んでいく。その調べは不穏でありながらあくまでも美しい。
09ON OUR WAY
古いレコード・ノイズに控えめなスクラッチ、リズム・ボックス。アルペジオを奏で続けるピアノに流麗なストリングスなど、現代的手法と生楽器のバランスが絶妙な、コンテンポラリー・リズム・アンド・ブルース。
10WITHOUT YOU
あなたは私のベター・ハーフと歌われる内容もさることながら、なんとも甘美なメロディが展開されるナンバー。パワフルな面ばかり強調されてきたアギレラだが、はかなげなファルセットなど女性らしいヴォーカル・ワークには、ノック・アウトだ。
11STILL DIRRTY
前アルバム『ストリップト』収録曲「ダーティ」をモチーフにした、攻撃的な歌詞やサウンドで攻めてくるヒップホップ色が濃いフロア・キラー・チューン。アギレラのヴォーカルは、ホーン・セクションの一部であるかのように硬質で、“まだダーティなのよ”と言い放つ。
12HERE TO STAY
“定義するのはいつも私”と力強く宣言する詞が印象的なナンバーで、各国のCMや映画でもタイアップ曲となっている。バック・トラックはちょっぴり懐かしいクラブ・サウンドの趣で、それに寄り添うキャッチーなヴォーカルが魅力的だ。
13THANK YOU (DEDICATION TO FANS...)
アギレラの自身の曲やファンからのヴォイス・メールをサンプリングした、その名の通りファンへの感謝の気持ちを捧げたナンバー。DJプレミアによるプロデュース手腕が光る、楽しみにあふれた1曲だ。
[Disc 2]
01ENTER THE CIRCUS
軽快なオルガンやヴァイオリン、ラッパにのって語られる口上が、どことなく悲しげに響く、サーカス音楽をモチーフにしたインストゥルメンタル。古き良き時代を再現する作品世界に、聴く者を一気に引き込んでいくようだ。
02WELCOME
哀調のストリングスにアギレラのたくましいヴォーカルが乗る。サビはミディアム・ロック調で映画のクライマックス・シーンにもマッチしそうだ。時にピアノとヴォーカルのみに展開する巧妙なアレンジが耳を引く、多面的なナンバー。
03CANDYMAN
1900年代前半のアメリカの歓楽街か? と思わせる、最高に楽しげなビッグ・バンド・ブギ・ウギ。往年のガールズ・グループ風のコーラスやアギレラのドゥ・ワップやウィスパーなど、巧みなヴォーカル・ワークが楽しめるナンバー。
04NASTY NAUGHTY BOY
古きキャバレーのショウ・タイムを思わせる、妖艶なスロー・バラード。官能的な詞世界を、ビッグ・バンドを従えて、ここぞとばかり色香で誘惑するようなアギレラのヴォーカル、ジャズ・スキャットもポップ・シンガーの域をこえて巧みだ。
05I GOT TROUBLE
トラブル、トラブル、私はトラブルメーカー……。往年のジャズ・ナンバーにならった物憂い歌詞、全編を覆う古いアナログ・レコードのノイズのようなエフェクトが、懐かしさを煽る1曲。気だるいムードのスロー・ジャズは、大人の夜にぴったりの雰囲気だ。
06HURT
哀愁が漂うメロディで愛の後悔を歌う正統派バラード・ポップス。ピアノとストリングスのみのバック・サウンドに乗った、アギレラのヴォーカルにもほどよく抑制が効いていて、いっそう切なさを感じさせている。
07MERCY ON ME
神への懺悔と新しい自分自身の始まりを歌う壮大なナンバー。パイプ・オルガンと聖歌隊風コーラスによるオープニングが美しい。ピアノとドラムスをバックに、ジャジィなクライマックスへ展開するミディアム・ナンバー。
08SAVE ME FROM MYSELF
ア・カペラで始まり、アコースティック・ギター1本のシンプルなバックで歌われる、甘く切なげなラブ・ソング。アギレラの声は耳元で歌われているかのような生々しさで、コケティッシュな雰囲気を携えている。
09THE RIGHT MAN
「父に手酷い扱いをうけ、男性を信じられなかったけれど、やっと誠実な人に出会えた」という一節が印象的。結婚を機に、アギレラ自身を投影したドラマティックで力強いバラード・ナンバー。ストリングスによるバック・サウンドには、神聖な心の高まりを感じる。
仕様
エンハンストCD内容:バック・トゥ・ベーシックス (スペシャル・フッテージ)