ミニ・レビュー
93年以降録音のバラードを集めた25周年ベスト。「セカンド・ラブ」「予感」など初期の名曲も大人の仕上がりに。特に85年当時都会的だった「SOLITUDE」は大陸的で優美に変化、98年の「帰省〜Never Forget〜」はより鬼気迫る歌唱でライヴ感たっぷり。新曲「あの夏の日」の“変わりゆく季節、変わらない想い”という歌詞が印象的。
ガイドコメント
デビュー25周年企画のベスト・バラード集。既発作品からの選りすぐりナンバーのほか、「難破船」などが新録ヴァージョンで楽しめる。新曲「あの夏の日」にも注目。
収録曲
01難破船 (2007 Ver.)
87年発表のシングル曲の2007年新録ヴァージョン。20年を経てさらに深い情念が込められた歌声が、喪失感が立ち込めた歌詞をよりリアルに感じさせている。オリジナルに忠実な編曲もイメージを損なっていない。
02セカンド・ラブ
80年代初頭の歌謡曲の王道ど真ん中なナンバー。哀愁あふれる雰囲気は彼女の哀しげなキャラクターとよくマッチしている。のちのヴォーカル・スタイルからは想像がつかないほどその歌声は、可愛らしくあどけない。初期の彼女を語るうえではずせない曲だ。
03あの夏の日
移ろいゆく夏の風景と主人公の変われないという想いの対比が随所にちりばめられているのが印象的な、切なさあふれるナンバー。そっと吐き出すようにかすれる明菜のヴォーカルが、いっそう聴く者の想像力をかきたてるようだ。
04LIAR
89年発表のシングルをリメイクした95年のベスト『true album』から収録。「ただ泣けばいいと思う女に見られたくない」という主人公の強い意志が、より抑えた歌唱によって浮き彫りになっている。
05水に挿した花
90年発表のシングルをリメイクした、2002年のベスト『歌姫Double Decade』より。ピアノ1本のシンプルなアレンジと耳元でささやくような歌唱によって、繊細な主人公の心情と孤独感が強く迫ってくる。
06陽炎
93年のアルバム『UNBALANCE+BALANCE』のラストに収録されたナンバー。歌詞を明菜本人が手がけ、想いを重ねるように丁寧に歌うことで、深い情念を抱え続ける主人公の物悲しさがより切なく響いている。
07赤い花
パク・ヨンハの歌う韓国ドラマ『オールイン〜運命の愛』エンディング・テーマ曲のカヴァー。言葉をひとつずつ確認しつつ進むような力強いヴォーカルとミステリアスなアレンジが相まって、緊迫感が漂いながらも余韻が残る楽曲となった。
08SAND BEIGE〜砂漠へ〜
サハラ砂漠をテーマにして、楽曲にさまざまな実験を試みたナンバー。エキゾティックな雰囲気がミステリアスなキャラクターの彼女に合っていて、何を歌っても様になってしまうのがすごい。
09SOLITUDE (2007 Ver.)
85年発表のシングル曲の2007年新録。オリジナルでは都会的な歌詞とサウンドが印象的だったが、シンプルなピアノのイントロとつぶやくような明菜のヴォーカルによって、いっそう無機質な都会像を彷彿とさせるナンバーとなった。
10二人静
松本隆が歌詞を提供し、関口誠人が曲を作り、井上鑑がアレンジし、中森明菜が歌う。そうすると何か不思議な“ずれ”のようなものが現出するのだ。日本的でありながらどこかミステリアスな雰囲気の漂う楽曲となっている。
11月華
94年当時、ジュエリーのCMソングに起用され、今でもステージで披露される機会が多い人気のナンバー。明菜の大きな持ち味であるヴィブラートを多用した歌唱が、メロディやアレンジと相まって他に例を見ないほど激情的になっている。
12予感
95年のベスト・アルバム『true album』に収録のヴァージョン(原曲は85年『ビター・アンド・スウィート』に収録)。ささやくような歌唱も印象的だが、言葉にない行間までもを吐露するような弦楽器の存在感も聴きどころだ。
13初めて出逢った日のように
パク・ヨンハの歌う韓国ドラマ『オールイン〜運命の愛』エンディング・テーマを、より原曲に近い形でカヴァー。感情をむき出しにせずあえて抑えて歌うことで、かえって主人公の心の機微がリアルに伝わってくる。
14駅
2002年のカヴァー・アルバム『歌姫Double Decade』収録のヴァージョン(オリジナルは86年に発表)。高揚感の強いアレンジや物語性の強い詞、そして繊細な歌唱が三位一体となって、聴き手をぐいぐいと引き込む珠玉のスロー・バラードだ。
15帰省〜Never Forget〜 (2007 Ver.)
98年に発表されたシングルの2007年新録ヴァージョン。地底を這うような前半からサビで一気に跳ね上がるという難解なメロディを、原曲以上に気迫が満ちたヴォーカルで歌い上げている。新境地を拓いた明菜の力強さに圧倒されるナンバーだ。