ミニ・レビュー
LAのロック・バンドの3年ぶりのニュー・アルバム。コーラスを多用し、きれいなメロディを聴かせるポップなナンバーが中心で、彼らならではのファンク度は希薄になった。よりポピュラリティは増しただろうが、かつてのファンの気持ちは複雑かも。
ガイドコメント
世界最強のロック・バンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ。日本をはじめ、全世界で確固たる地位を築き上げた8枚目のオリジナル・アルバム。ジョン・フルシアンテのギターが深い世界へと誘い込む。
収録曲
01BY THE WAY
穏やかなオープニングから一転、フリーのベースが唸りをあげる『バイ・ザ・ウェイ』のタイトル曲にして、リード・ナンバー。ギターのみならず、キャッチーなメロディにファルセットでコーラスを聴かせるジョンの存在感はここでも光る。
02UNIVERSALY SPEAKING
往年のモータウン・ヒットをニューウェイヴ風に演奏したような雰囲気のポップ・ナンバー。フリーのベース・ラインがニュー・オーダーのピーター・フック風だったり、バンド・サウンド全体にエレポップ・テイストが感じられる。
03THIS IS THE PLACE
派手さを抑えた「バイ・ザ・ウェイ」のような雰囲気のナンバー。フランジャーを駆使した奥行きのある音空間、地味に黙々とキープされるリズムが、この曲の主役である歌の魅力を後押し。やるせないメロディも魅力的だ。
04DOSED
アンソニーが恋への憧れと喜びを歌った衝撃の純愛メロウ・ナンバー。ときに女性蔑視寸前のあけすけなセックス・ソングを歌っていたアンソニーが書いたとは思えない歌詞に、こちらが大照れしてしまう。
05DON'T FORGET ME
ドラッグの欲望と闘う主人公に、かたや救世主として、かたや擬人化したドラッグとして呼びかけるアンソニー。長いドラッグ依存状態から脱したアンソニーならではの描写がリアルな、異色アンチ・ドラッグ・ソングだ。
06THE ZEPHER SONG
メンバーが敬愛するジャズ奏者の名を借り「コルトレーン」の仮題が付けられていた軽やかなナンバー。“飛んで行こう”の歌詞そのままに、アンソニーの歌唱もバックのハーモニーも浮遊感満点。レッチリの新機軸だ。
07CAN'T STOP
サビで採り入れたスカ風展開など、彼ら従来のミクスチャー・サウンドがさらに進化した気配も伝わってくる雑食ファンク。ジョンが弾くファンキーなリフの上で、ジャズやロックやファンクの素養が跳ね回っている。
08I COULD DIE FOR YOU
カーティス・メイフィールド風のスケールで歌うアンソニーのヴォーカルやバックの恍惚ハーモニーから、レッチリの新たな魅力がにじみ出ているラブ・ソング。あのアンソニーが愛に身を捧げる曲を真摯に歌っているから滑稽だ。
09MIDNIGHT
ストリングスの旋律によるクラシカルなイントロからアブストラクト・ヒップホップ風に移行し、さらにジャジィに……と、目まぐるしい構成のナンバー。歌詞にも仏陀やケネス・アンガーが入り乱れる、まさにミクスチャーな内容だ。
10THROW AWAY YOUR TELEVISION
予想外の音楽性が次々と披露される刺激作『バイ・ザ・ウェイ』にあって、旧作寄りの音楽性が主成分になっているのがこのファンク・ナンバー。他の曲での進化を知ってしまった耳には、もはや古びてさえ聴こえる曲調だ。
11CABRON
メキシコ人の男が主人公で、サウンドもメキシカンな擬似フォルクローレ・ナンバー。ジョンが作ったフラメンコ調のギター・インストが土台になっており、慣れないスタイルのサウンドにリズム隊からはかなり苦戦した様子がうかがえる。
12TEAR
ピアノをフィーチャーした、やけにビートリッシュなイントロで始まるバラード。ビートルズあるいはイーグルスを思わせるハーモニーなど、レッチリの引き出しに新たな魅力的素材を加えてみせる佳曲。文学的な歌詞も◎。
13ON MERCURY
魅力的なラブ・ソングが数曲収録されている一方で、愛の終わりを示唆した曲も収録されている『バイ・ザ・ウェイ』。この曲は後者にあたり、スカ・ビートが歌詞に漂う哀愁を助長。ジョンのハーモニーも効果満点だ。
14MINOR THING
ザ・スミス「セメタリー・ゲイツ」やU2の「ニュー・イヤーズ・デイ」を思わせるトラックを土台に、レッチリらしい小気味良いラップを加えたウェットなファンク・ナンバー。ジョンの弾くギターはまるでジョニー・マー。
15WARM TAPE
アンソニーが“子作りの際のBGM”に推奨するとおり、サビの歌詞が営みを想起させるニューウェイヴ調のラブ・ソング。ドラムとベースがそれぞれ違ったうねりを展開し、バックにはスペーシーなサウンドが広がっている。
16VENICE QUEEN
肺がんで死去したドラッグ・カウンセラー、グロリア・スコットに捧げられたナンバー。ドラッグ中毒から立ち直ったアンソニーが、恩人への思いを歌った詞が感動的。ジョンがアコースティック・ギターで会心の演奏を披露する。
17TIME