ミニ・レビュー
個性派の女性シンガー・ソングライターの、インディ・デビューからのシングルによりキャリアを追ったベスト・アルバム。限定生産2枚組『デラックスカタログ』と本作の限定紙ジャケ仕様と通常盤がある。DVDも同時リリース。
ガイドコメント
本人の選曲によるべスト・アルバム。2001年のデビューから5年間の活動をシングル曲メインに集大成した内容で、PS2ソフトなどでも知られる彼女の歌世界が見事にカタログ化されている。
収録曲
01箱庭〜ミニチュアガーデン〜
曲の中に“静と動”を取り入れた、激情型のオルタナティヴ・ロック。美しく狂気的なメロディに被虐的な自己葛藤の詞を乗せ、力強い歌声でぶつけてくる。シャウトを繰り返す終盤では“コロシテ”と呟く天野の声にゾクリとする。
02Love Dealer-2006-
インディーズ時代にリリースされたディスコティック・ナンバー。鮮やかなホーン・セクションをたっぷりと導入し、イントロでは軽快な音が華やかに弾ける。一途な愛を綴る詞が、懐かしい歌謡曲風のメロディの上で生き生きと輝いている。
03B.G.〜Black Guitar+Berry Garden〜
天野が黒いギターを買った嬉しさから作曲したという、疾走感たっぷりのポップ・チューン。恋人に別れを告げられ、諦めきれない女の子の感情を歌っている。浮遊感のある甘いささやきや少女っぽい歌声など、さまざまな声の変化が面白い。
04菩提樹
メジャー1stシングル。へヴィなロック・サウンド、生の情念を臆せずありのままぶつけた詞、圧倒的にタフで艶のある声は、シーンに衝撃を与えた。有名なシューベルトの同名曲は、恋に破れた男の放浪の旅を描いたミューラーの詩集から生まれたもの。彼女の詞は、この男が身を寄せる菩提樹に自らを託したものと思われる。
05スナイパー
天野月子のチャーミングなエンターテイナーとしての一面が発揮された2ndシングル曲。昭和のスパイ映画風コスプレのジャケット、恋するふたりの追いつ追われつの関係を狙撃手と追っ手に例えたコミカルな詞、ギター・ポップ寄りのアレンジと、1作目とはうって変わった軽やかさを見せる。
06Treasure
エレキ・ギターの歪んだ音が、楽曲に激しい熱情を吹き込むハード・ロック調のナンバー。恋人を“宝物”にたとえた詞からは、天野の愛に対する価値観が伝わってくる。“タバコがないから接吻を”という、ハッとさせる言葉遊びにも心を惹かれる。
07HONEY?
純粋で真っ直ぐな恋心を、ポップなギター・ロックで表現した一曲。切なくもダイナミックなギターや、アクロバティックに蛇行するメロディ、スパイシーな歌い方はアラニス・モリセットを彷彿とさせる。“どこでも行って そんなとこが好き あなたにはいい男でいてほしいの”という突き放した物言いが印象的。
08人形
久々のど真ん中のへヴィ・ロック・チューン。重く激しく折り重なるギターとドラム、喉を切り裂きそうな渾身のヴォーカルで、自分の体を焼き尽くすような激しい愛情をこの一曲に叩きつけた。彼女の大きなブレイク・スルーとなったナンバーである。最初と最後に流れる、美しくもどこか淋しいオルゴールの旋律が印象的。
09鮫
ディスコティックなシンセサイザー音が、冷ややかな鋭さを演出するオルタナティヴ・ロック。自分を水槽の中の鮫にたとえ、煙たがられるように低く泳いで、男に飽きられる女心を歌っている。サビに入る激しいブラスト・ビートが、恋に抱く狂気を表わしているようだ。
10蝶
漢字一文字シリーズの特徴は、やはりジャパニーズ・テイスト。しかも日本人が思う本格的なものではなく、タランティーノが憧れる日本、みたいなフェイク感で、それがこの曲で最も上手く出しているように思う。たとえば前奏のアレンジや漢字使い、“スコープを片手に君の腕を探していた”という唐突なヴァイオレンスなどがまさにそれ。
11月
美しくもどこか淋しげなメロディに、ピアノ/チェロのアレンジを添えた正統派のポップス。難病の弟を抱えつつ、ヤクザとして必死に生きる青年、それを優しく包み込む女性を描いた映画『ムーンライト・ジェリーフィッシュ』の主題歌として書き下ろされた曲であり、いつになく彼女のヴォーカルが優しいのが印象的。
12イデア
フジテレビの人気アニメ『金色のガッシュベル!!』のエンディング・テーマ。キャッチーなメロディとハード・ロック調のアレンジにのせたパワフルな歌声は、アニメ人気に呼応して、幅広い年代に支持された。
13翡翠
別れの悲しみと未来への希望を、東京フィルハーモニー交響楽団による壮大なオーケストレーションをバックに歌い上げる感動作。愛情あふれる彼女の歌声は、縮こまった心を広大な大地へ解き放ってくれるようだ。
14聲
鼓動のような単音のピアノに、歌声が重なり、さらにストリングス、リズム、ギターが重なって、怒涛のサビへとなだれ込んでいく展開がドラマティック。自分の体の一部を捧げても会いたいけれどそれも叶わないという詞、激しく恋焦がれる想いと相手の不在、という難しいテーマを、彼女のヴォーカルは鮮やかにタフに歌い抜く。