ミニ・レビュー
アルバム2枚同時発売のうちの一枚で、もう一つの『Rod Snake Shock Service』よりエクスペリメンタルで内省的な楽曲が集められており、浅井のダーク・サイドをデフォルメして作品にまとめたような印象。こっちの方がディープなファン向けか。
ガイドコメント
ソロ名義での活動開始以降、創作意欲の加速を感じさせる“ベンジー”こと浅井健一のソロ第2弾アルバム。その奥深い世界観が顔を見せる重厚な作風で、SHERBETSの福士久美子やリトルクリーチャーズの鈴木正人らとのセッションも収録されている。
収録曲
01愛してる
穏やかなアコースティック・ギターとそよ風のような女性コーラスで始まる、アルバム『CHELSEA』のオープナー。“裸で生まれて 裸で死んでゆく/誰もがみんな同じ”。ベンジーの静かな歌声がじわじわと心に広がっていく、9分弱の大作だ。
02コヨーテ
涼しげなピアノの音色に、シャッフル・ドラムと鈴木正人の渋いベースが重なるイントロ。ウエスタン調のメロディとジャジィなアレンジがクールなアップ・テンポ・チューンだ。“家族っていうことは 強いっていうことさ”という言葉にジーン。
03Grape Juice2
シンプルかつヒリヒリしたサウンドのロック・ナンバー。ティーンエイジャーのささくれだった心情を投影した歌詞は、ブランキー・ジェット・シティ時代から進化し続けている。キーボードのオーケストレーションから流れ出す哀しみに胸が詰まる。
04宇宙の果て
“宇宙の果てには何があるの”。素朴な問いかけで始まる静かなロック・チューン。哀愁を帯びたサウンドは、キンクスの「僕はウヌボレ屋(I am not like anybody else)」を思わせる。短編小説を読むように情景が目に浮かんでくる歌詞も味わい深い。
05池
3ピースのアッパーなガレージ・ロック。左右それぞれのチャンネルから繰り出されるベンジーの独りギター・バトルが聴きもの。“心の底にある池の水面を/鏡のように静まり返せば映るよ答えが”や“体ボロボロでも明るく前向き”な俺の言葉は、哲学的だ。
06Night Club
セクシーで退廃的な雰囲気の歌詞と70年代全開のサウンドがどハマリなミッド・チューン。曲の始まりではヒンヤリしていた空気が、次第に厚みを増していくギター・サウンドに煽られてヒート・アップしていく。アルバム『CHELSEA』を象徴する一曲。
07Don't Touch Me
爆走するギター、トライバル・ドラム、呪術的なスキャット。真夜中のハイウェイを疾走しているような、ドライヴ感満点のインストゥルメンタル。「俺に触るな」というタイトルどおり、他人を寄せつけないクールさがカッコいい。
08Pink Soda Days
シングル「FIXER」に収録の、カップリングにはもったいない6分強の大作。陰鬱でまどろんだムードのAメロからBメロで一気に拓ける壮大な世界。郷愁を感じさせるベンジーの風景描写や透きとおる女声コーラスなど、聴きどころが満載だ。
09孤独な林檎たち
微かに聴こえていたギターの音色が、淡々と刻まれるリズムに押されて大きくなっていく。じわじわと体を蝕むドラッギーなロック・サウンドは、ベンジーの専売特許だ。孤独な林檎たちは、見えない壁を超えることができるのか。
10道
シンセ・ストリングスをフィーチャーした黄昏色のミッド・バラード。ベンジーの雄弁なギターと鈴木正人の揺るぎないベースによって、優しくも硬派なサウンドができあがった。ベンジーの美しいファルセット・ヴォイスが聴ける貴重なナンバー。