ミニ・レビュー
独特のキャラクターが人気のロック・ヴォーカリストの第3作。相変わらずのハチャメチャぶりだが、音楽的な幅も広がり、ロックの楽しさを満喫できる作品となっている。細かいジャンルなどにこだわらず、自分のやりたい音楽にまっしぐらの潔さ。気持ちいい。
ガイドコメント
鼻血ジャケットで話題となったパーティ・ロックの代表的存在アンドリューの、『一匹狼』に続く約3年弱ぶりとなる3rdアルバム。前作での成熟っぷりに、もっと弾けてくれと思っていたファンも納得のサウンドが楽しめる。
収録曲
01I CAME FOR YOU
アンドリューW.K.がまるでジョン・ボン・ジョヴィのように朗々と歌い上げる、スケールの大きな異色バラード・ナンバー。伸びやかなエレクトリック・ギターの音色とゆったりとしたビートがどこまでも広がる地平線を思わせる。
02CLOSE CALLS WITH BAL HARBOUR
さまざまな楽器の逆回転サウンドが縦横無尽に行き来する、スペーシーかつ実験的な音作りが特徴的なミニマル・ロック・ナンバー。深くエコーのかかったヴォーカルをあくまでも伴奏楽器の1つとして使用しているのが新鮮だ。
03NOT GOING TO BED
『一匹狼』のプロモーションとして日本で行なわれた、24時間耐久サイン会の経験からインスピレーションを得たというパーティ・ソング。タイトルを体現するかのように、アンドリューのヴォーカルも活力に満ちている。
04YOU WILL REMEMBER TONIGHT
今夜はお前にとって人生最高の夜になるぜ! という確信に満ちたヘヴィ・ロック・チューン。楽曲後半の長いインタープレイは、アンドリューW.K.のルーツの1つである、80年代のヘヴィ・メタルを思わせる。
05PUSHING DRUGS
切迫感に満ちた歌声が印象的な、薬物乱用防止を訴えたメッセージ・ソング。一般的なロック・ナンバーならばエレクトリック・ギターで弾かれるであろうフレーズをキーボードに置き換え、ディスコ調サウンドで演出しているところがニクイ。
06HAND ON THE PLACE
さまよいながらも目的地に向かって突っ走る男の姿を描いた、感動的なロック・アンセム。分厚いバック・コーラスが歌の主人公を後押ししているかのようで、メロディアスなフレーズを奏でるピアノが楽曲のコード感を強調している。
07ONE BROTHER
自分自身の足で立つことの大切さを歌い上げるギター・ロック・ナンバー。一聴するとシンプルだが、エレクトリック・ギターのフレーズがカット・アップされたりと、じつは意外と凝ったサウンド構築。楽曲の後半でキーが上がる展開がドラマティック。
08LAS VEGAS, NEVADA
アンドリューW.K.版「ヴィヴァ・ラスベガス」といった趣きの、刹那の快楽に満ちたギャンブル・ソング。エレクトリック・ギターのウォール・オブ・サウンドと軽快なシャッフル・ビートの組み合わせの妙が楽しめる。
09DR.DUMONT
アンドリューW.K.自身が弾くクラシック調のピアノのみで構成された、荘厳かつメランコリックなインストゥルメンタル・ナンバー。タイトルの「デュモン先生」とは、彼が子供の頃にかかっていた医者の名前とのこと。
10I WANT TO SEE YOU GO WILD
軽快なロックンロール・ピアノとオーケストラ・ヒットを前面に押し出した、懐かしくも新しいハードコア・チューン。ハメをはずしてひたすらにバカになることを求める歌詞と性急なビートが見事にマッチしている。
11WHEN I'M HIGH
アンドリューW.K.の音楽の重要な要素である“高揚感”をテーマにしたロックンロール。細かいリズムを正確に刻むエレクトリック・ギターを筆頭に、長年のツアーを経て結束の強まったバンド・アンサンブルも絶好調といえる出来だ。
12GOLDEN EYED DOG
プロデューサーであるドン・フレミングがメイン・ヴォーカルをとるブルース・ナンバー。伴奏楽器はベースのみというシンプル極まりないサウンドで、馬鹿馬鹿しい歌詞を芝居仕立て風に歌い上げるさまがユーモラス。
13INTO THE CLEAR
苦難のなかでも決して諦めずに、明るい未来を目指して進み続ける……。そんなアンドリューW.K.の決意が刻まれたハード・ロック・ナンバー。無駄なものはいらないとばかりにコンパクトにまとめられた、わずか1分半の小品だ。
14MARK MY GRACE
アンドリューW.K.の80年代ヘヴィ・メタルへのあふれんばかりの愛情が噴出したヘヴィ・ロック・チューン。アンドリューW.K.の歌声も、甲高いシャウトや囁きを織り交ぜたりして、いつも以上に表情が豊かになっている。
15DON'T CALL ME ANDY
幼き頃のアンドリューW.K.を題材にした自伝的ナンバー。シンプルなギター・リフが豪快に響きわたるなかを、ピアノも流麗なフレーズを奏でながら縦横無尽に駆け巡る。手数がやたら多い、キース・ムーン調のドラミングにも注目!
16THE BACKGROUND
インダストリアル・ロック調のヘヴィなベース・ラインからスタート。その後はリズム・チェンジが何度も繰り返されるなかで徐々にスピード・アップしていくという高揚感に満ちた展開を持った、アンドリューW.K.流プログレッシヴ・ロック。
17SLAM JOHN AGAINST A BRICK WALL
シンプルなフレーズが何度も繰り返されるアンドリューW.K.流ゴスペル・ナンバー。物騒な歌詞とは対照的に、ジャジィなピアノとムーディなホーン・セクションがフィーチャーされたサウンドは、大人っぽいムードが満点。
18THE MOVING ROOM
アルバム『兄貴、危機一髪!』のラストを締めくくる感動的なシンガロング・チューン。夢に向かって走り続ける、あてのない旅を描いた歌詞には、アメリカン・ロックの本質が凝縮されている。哀愁に満ちたピアノのフレーズが切なくも力強く響く。