ミニ・レビュー
一見共通項のない二人のようだが、トンガったところがありながらも包容力があるという点で似た者同士。ジャズ・アルバムとカテゴライズされるのだろうが、実際はもっと自由な感じ。ゆったりとした安心感とピリピリとした緊張感が同時に存在するような不思議さがある。★
ガイドコメント
ベテラン・サックス奏者の菊地成孔と、たおやかなヴォーカルを聴かせるUAのコラボ・アルバム。コンボ形態によるスタンダード曲が中心だが、UAの存在が単なるジャズの枠を打ち破り、独自の世界観を作り上げている。
収録曲
01ボーン トゥー ビー ブルー
メル・トーメの名スタンダード曲。アルバムののっけから圧倒的な存在感と深みのある声でじっくり聴かせるUAを、ストリングスとハープのムーディなサウンドが優しく包み込む。菊地成孔の色気のあるソロも聴きどころ。
02チュニジアの夜
ガレスピーとフランク・パパレリの名曲スタンダード。比較的オーソドックスなアレンジで、UAもテーマは忠実にメロディを歌っている。聴きどころは、菊地成孔の背後でUAが独特のスキャットを披露するエンディング。
03虹の彼方に
本アルバム『cure jazz』のハイライトのひとつ。UAの呼吸にバッキングが合わせるという斬新なアレンジが特徴的で、ゆえに前テーマだけで約7分を要している。ストリングスやパーカッションを交え、一気に盛り上がる終盤も見事。
04夜が明けない星のための音楽
ドラムのブラシで始まる菊地成孔のスリリングなオリジナル・ナンバー。UAはポエトリー・リーディングと左右に分かれた妖しいコーラスを披露。難解な歌詞や意表を突くアレンジなど、菊地の個性が発揮されている。
05オーディナリー フール
ピアノ・トリオにパーカッション2人+UAという編成のバラード・ナンバー。物悲しい歌詞とUAのあか抜けないヴォーカルが絶妙に絡んだ名演。作曲者はカーペンターズの楽曲などでも知られるポール・ウィリアムス。
06溜息の泡
全編広東語という菊地成孔のユニークなオリジナル曲。UAの発音がうまいのかどうかはわからないが、陰のある歌いまわしと漢字からも読み取れるメランコリックな歌詞は合っているようだ。主旋律はきわめて美しい。
07この街はジャズすぎる
菊地成孔がチェット・ベイカーのような味のある歌声を披露する小粋なスウィング曲。リトル・クリーチャーズの鈴木正人(b)のツボを抑えたソロやUAと菊地がデュエットする後半のテーマ・メロディなどが聴きどころ。
08ルイーザ
小曽根真のカヴァーでも知られるジョビンの物悲しい名ナンバー。菊地成孔とUAがデュエットするが、歌詞は全編ポルトガル語。美しいオーケストレーションをバックに、2人が情感豊かなヴォーカルを披露する。
09蜜と蠍
菊地成孔のオリジナル曲。UAと打楽器陣のみの演奏で始まる軽快なラテン・ナンバー。ブラス・セクションのにぎやかなバッキングやUAのパワフルなヴォーカル、菊地成孔の狂気じみたブローなど、聴きどころが満載。
10ランバレネの賛美歌
厳かなパイプ・オルガン・サウンドが印象的なオリジナル曲。中盤からパーカッションとホーン・セクションが加わっていくきわめてスケールの大きいナンバーだが、それにも勝るUAの存在感あるヴォーカルには圧倒される。
11アイル ビー シーイング ユー
スウィング期からの名スタンダード・ナンバー。リズム隊の入らないハープ主体の静かなアレンジが特徴的で、微妙に粘り気のあるUAのヴォーカルをきわだたせている。菊地成孔も色気に満ちたソロで華を添えている。
12水質
アルバム『cure jazz』のラストを飾る全編フランス語のオリジナル・バラード。菊地成孔とUAのウィスパー・ヴォイスによるユニゾン・メロディと、楽曲に鮮やかなアクセントをつけるチェンバロのクロマティックなフレーズが印象的。