ミニ・レビュー
今のアメリカンのシーンに不可欠だった影響力絶大のバンドの軌跡をまとめた2枚組ベスト。いわずもがなのニルヴァーナ、スマパンにグリーン・デイ、果てはプロディジーのファンまで聴いて損はなし、ほとんど聴かないまま過ごしてた自分の耳を反省しました。
ガイドコメント
87年から91年まで4年間活動し、のちの音楽シーンに大きな影響を与えたアメリカのバンド、ピクシーズのベスト盤。初回生産分のみ21曲のライヴを収録したボーナス・ディスクが付く。
収録曲
01CECILIA ANN
往年のサーフ・インスト・バンド“サーフトーンズ”の代表曲をカヴァー。原曲のエキゾチックなムードや、ドラムだけ別室で叩いたような独特のサウンドは踏襲しつつ、彼らなりのメタリックなテイストを加えて秀逸にカヴァーしている。
02PLANET OF SOUND
ノイジーでメタリックなサウンドのナンバー。地球外と思わしき惑星を舞台にした抽象的歌詞を、“爬虫類ヴォーカル”と称される独特の歌声にエコー処理をかけて激唱。バンド・サウンドのドライヴ感がたまらなくクール。
03TAME
ベースのイントロで静かに始まる序盤部で感情を溜め、“Tame”の箇所で一気に爆発させるアグレッシヴなナンバー。静と動のコントラストを極端につけたダイナミックなサウンドだ。ギター・リフはジミ・ヘンドリックス直系。
04HERE COMES YOUR MAN
フランシスが15歳の時に作ったポップ・ナンバー。本人はR.E.M.の影響を吐露しているが、ほんわかとしたメロディやギター・リフは、古き良き60年代ポップスを思わせもする。彼らの音楽の多様性を象徴したような一曲だ。
05DEBASER
ブニュエルとダリの実験フィルム『アンダルシアの犬』(1928年)を念頭に書かれた歌詞による疾走ナンバー。ベース・ラインの雰囲気など、ニルヴァーナ「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」への影響もうかがえて面白い。
06WAVE OF MUTILATION
日本のナンバーガールもカヴァーした美しく躍動感のあるナンバー。歌詞には自動車での入水自殺が描かれるが、サーフ・ミュージック好きのフランシスは、そこで主人公を死なせることなく、奇妙な波乗り劇へと発展させている。
07DIG FOR FIRE
彼らの知名度を格段に上げてみせた出世曲。サクッとポップな曲調を、“らしくない”とするファンもいるようだが、笑顔の裏側に凶悪さを忍ばせていそうな雰囲気は、ピクシーズの屈折した作風そのものではないだろうか。
08CARIBOU
穏やかな曲調が、激情モードへと急展開。静と動、美と醜、ファルセット歌唱とスクリーミング歌唱が背中合わせになった作品世界は、彼らの屈折して倒錯した音楽性を象徴している。デビュー作の1曲目を飾った衝動的なナンバーだ。
09HOLIDAY SONG
初期ピクシーズ作品によく見られた、初期衝動のままに疾走するナンバー。ドライヴするエレクトリック・ギターの裏で、ざっくりと刻まれるアコースティック・ギターが隠し味。グランジ・ロックに継承された要素も満載だ。
10NIMRID'S SON
パーカッシヴなギターが楽曲全体をラテン音楽調に染め上げているナンバー。滑らかとは言い難い緩急の付け方は、楽曲が抱える衝動をむしろ強調。“泣きっ面に蜂”的な風景が描かれた歌詞には、宗教的な引用も散見する。
11U-MASS
オーソドックスなロック・サウンドを、彼らの屈折した感性でねじり上げているような趣の曲。キャプテン・ビーフハートとの共演で知られるエリック・ドリュー・フェルドマンの鍵盤プレイが、楽曲にさらなるねじれを与えている。
12BONE MACHINE
ドラム、ベース、ギターが順に加わるだけの淡々とした展開ながら、聴くたびテンションが上昇してしまうファンも多かろうナンバー。極端に緩急を付ける得意の手法を駆使した、アヴァンギャルドでカオティックな楽曲。
13GIGANTIC
キム・ディール共作&歌唱のキャッチーなナンバー。ベーシストの作だけあり、終始ベース・ラインは耳に残り、タイトルを連呼するコーラスはキュート。歌詞は、映画『ロンリー・ハート』(86年)の内容に触発されたもの。
14WHERE IS MY MIND
やるせないメロディや、歪んだディストーション・ギターなど、鬱屈した感情を投影したサウンドがエモーショナルな気分を生み出す名曲。映画『ファイト・クラブ』(99年)のエンディングに使われ再評価され、いまや彼らの新たな代表曲となっている。
15VELOURIS
“溜めて爆発”系のエモーショナル・ナンバー。イントロからサビへの転じ方など、彼らがいかにウィーザーに影響を与えたかは、この曲を聴けば明快である。リード・ギターならぬリード・テルミンが聴ける希少な一曲。
16GOUGE AWAY
ロックの古典的エッセンスが主成分の曲調ながら、殺伐としてざらざらとした空気は、ピクシーズならでは。歌詞は、旧約聖書におけるサムソンとデリアの物語が下敷きだが、そこにマリファナを絡める屈折ぶりはさすが。
17MONKEY GONE TO HEAVEN
解釈の難しいシュールで抽象的な歌詞が、美しく躍動的なメロディ/サウンドと合致。わからないことをわからないこととして享受してこそ初めて堪能できる名曲だ。彼らにしては珍しくストリングスが使われた曲でもある。