ミニ・レビュー
楽曲にいっぱいの想いを込めて、でもお洒落に聴かせるのは越境者の強み。テクニシャン系でもウィスパー系でもない、いわばキュート系の上手さ。“ジャズ”の美味しいところを集めた美メロの数々が、多くのJUJUファンに新鮮な体験を届けるだろう。数年後にどう評価されているかがとても楽しみな一枚。★
ガイドコメント
JUJUが愛してやまないジャズをカヴァーしたアルバム。総合プロデュースに松尾潔、アレンジャー兼ピアニストに島健、ゲスト・ミュージシャンに菊地成孔や渡辺香津美、TOKUらを迎えて、スタンダード・ジャズを披露する。スヌーピーとのコラボも実現。
収録曲
01A Woman Needs Jazz
松尾潔詞曲制作の日本語詞によるシャレたジャズ・ナンバー。女になれば小粋なジャズが必要なのと歌う。ささやくようなラストの“ジャズ!”などは実に愛らしい。タイトルはレイ・パーカーJr.「ア・ウーマン・ニーズ・ラヴ」からの着想か。
02You'd Be So Nice To Come Home To
コール・ポーターが書いた1943年作品で、ヘレン・メリルが代表的。大橋巨泉の名誤訳「帰ってくれたらうれしいわ」としても知られる。“ずっと一緒ならなんて素敵なの”と、上辺だけのセクシーでは太刀打ちできないアダルトなムードで愛しい想いを語る。
03Night And Day
コール・ポーターがフレッド・アステア主演舞台『Gay Divorce』へ書き下ろした1932年作。邦題は「夜も昼も」。エレガントに踊る鍵盤やホーンに導かれ、いつもあなただけを想ってるのよとチャーミングに歌う。ボッサ調の導入やスキャットなども優しい。
04Candy
1944年に発表されたトランペット奏者、リー・モーガンによるナンバー。彼、ダーリン、ブー……愛する人の呼び方は数あれど、これほど甘い呼び方はないだろう。ここではJUJUも思い切りスウィートなレディになりきって、色気ある歌唱を披露している。
05Cry Me A River
1953年にアーサー・ハミルトンが手掛け、1955年にジュリー・ロンドンの歌唱でヒットしたジャズ・スタンダード。冒頭から漂う憂鬱なムードは、飽きたと言われた女が淋しいと言う男へ「川になるくらい泣いてみて」と迫る苛立ちの感情ゆえか。ほの暗い陰影が秀逸。
06Girl Talk
映画『ハーロウ』用に書き下ろしたニール・ヘフティ作のインストにボビー・トゥループが詞をつけた1965年発表曲。同名曲は現代でもあるが、ここでの“女のおしゃべり”は優雅と気ままが同居したもの。男には理解しがたい愉悦をしっとりと歌う。
07Lullaby Of Birdland
19枚目のシングルとして発表した、ジャズ・ピアニストのジョージ・シアリングの1952年作品のカヴァー。初めて聴いたジャズ・ヴォーカル曲とのことで、愛着もひとしお。スキャットを含めて甘美な佇まいで、ジャズクラブと恋人への深い愛情を吐露する。
08Moody's Mood For Love
1949年、ジェイムズ・ムーディの即興演奏にエディ・ジェファーソンが詞をつけた曲。土岐英史&麻子の父娘共演で妖艶なラヴ・デュエットが完成。JUJUは男役に徹して愛しき人への想いを語る。“DADDY T”の呼びかけに応えるサックス・ソロは粋な演出だ。
09Quizas、Quizas、Quizas
1947年発表の原曲はスペイン語詞だが、ここではほぼ英詞でカヴァー。「Quizas」は「たぶん」の意味で、はっきり愛してると言わない男への煮えきらない態度に“もう「たぶん」はこりごり”と呆れる女をJUJUが好演。ラテン・ムードいっぱいの曲だ。
10Calling You
映画『バグダッド・カフェ』テーマとして1987年に発表。ジェヴェッタ・スティールの原曲はもちろん、ホリー・コール版もヒットした。まとわりつくような倦怠が支配するほの暗いムードに包まれての物憂げな歌唱は、JUJUの真骨頂と呼べる出来。
11Ev'ry Time We Say Goodbye
ブロードウェイ舞台『Seven Lively Arts』書き下ろしのコール・ポーター1944年作。“さよならを言うたびに私は死んじゃう”という何とも愛くるしい句を、艶やかに深い吐息のように口ずさむ。甘美で切ないムードに満ちた大人のラヴ・ソングだ。
12Lush Life
完成はビリー・ストレイホーン19歳の1934年頃、1948年初出の作。ロマンスに浮かれて破れ、孤独な日常に戻っても、酒場の飲んだくれと酔いつぶれて生きてくわと語る女の人生訓を、カクテルを嗜むように深く濃く味わう歌唱で説く。自身のテーマのごとき所作だ。
13みずいろの影
両A面となった19枚目のシングル。松尾潔&川口大輔コンビ作に上品と華やかさを添えたのは、JUJUをジャズの音世界へ導いた島健の鍵盤と名うてのオーケストレーション。松尾の真骨頂の許されざる恋を魅惑にみせるマジックに、JUJUもうっとりと応えている。