ミニ・レビュー
通算10枚目のアルバムはここ数作とは異なる東京レコーディング。東京の物理的/心理的な暗闇の中で過去の輪郭は曖昧になり、未来が自分たちに近付いてくる……予感は丁寧なんだけど感情に突き動かされるままのメロディ描写によって自然と浮き彫りになる。★
ガイドコメント
マキシ・シングル「矯正視力○.六」のリリース後、2004年8月に発表された問答無用の最高傑作フル・アルバム。感情をゆさぶる日本語ロックによるエモーショナルなサウンドで、パンク、ロックなどのカテゴリーを取り払った。
収録曲
01街はふるさと
『Don quijote』のオープニング。意表を突くサビ2段構えの展開が、大きな広がりを見せる。「足許、今日もフラフラ」という人間の弱さをさらけ出す内容の歌詞は、ドラマティックな曲展開とリンクしてリスナーの涙腺を刺激する。
02JET MAN
タイトルどおり疾走感あふれるパンク・ナンバー。荒くれ感全開で“捨てて行け!”と連呼する一方で、“<誰の指図も受けない>なんてなかなか難しいもんだなあ”という詞に、社会の中で生きる人間の葛藤を垣間見ることができる。
03DON QUIJOTE
イントロからメジャー感全開のアンセム・ナンバー。パワフルなギター・ソロ後に訪れる、哀愁感漂うアコースティック・ギターからの展開が聴きどころ。“明日はきっと晴れる 俺には判る”という確固たるポジティヴィティが勇気を与えてくれる。
04暁のサンタマリア
彼らが得意とする突き抜けるようなメジャー感はないが、マイナー調のドスの効いた演奏によってバンド独特の哀愁感を生み出している。聴けば聴くほど楽曲の魅力に引き込まれてしまうナンバーだ。
05矯正視力〇・六
ピアノをフィーチャーした切ないメロディとパワフルかつエモーショナルな演奏が見事にマッチした傑作。“悲しみなんて川に捨てる 本当は内ポケットに仕舞ったままだ”という世界観は、あまりにもリアルだ。
06敗者復活の歌
乾いたギター・ストロークとアルペジオのセッションが心地よいロック・ナンバー。“避けて通れぬ道さ どの道も”と歌う吉野のエモーショナルな歌声からは、生ぬるいものを一切排除した本物のポジティヴィティを感じることができる。
07安手の仮面と間抜けた男
疾走感抜群の8ビート・ロック。だが、それは決して痛快なものではなく、がむしゃらになりふり構わず走る人間だということを、“立ち上がって 意地になって 振り解いていく”という言葉で綴っている。
08夜更けと蝋燭の灯
ギター&ヴォーカルでしっとりと始まるミディアム・ロック・ナンバー。哀愁が漂う爪弾くようなギター・ソロ、それにより引き立つエモーショナルな演奏、言葉を噛み締めるように歌う吉野のヴォーカル。すべてがガッチリと噛み合っている。
09大東京牧場
東京で生きる人々を歌ったミディアム・ロック・ナンバー。沈黙から一気に爆発するサビは凄まじい迫力だ。吉野のエモーショナルな表現は、「ヴォーカル」ではなく「ヴォイス」と呼ぶにふさわしい。
10街灯に明りが灯る前に
しっとりとしたミディアム・テンポにスピーディな8ビートで構成された、ドラマティックなロック・ナンバー。前半の穏やかな声と“街頭に明かりが灯る前に”というこれ以上ないシャウトとのギャップが聴きどころ。
11窓辺
アルバム『Don quijote』のエンディングを飾るミディアム・ロック・ナンバー。言葉を噛み締めるように歌う吉野のヴォイスが効果的に響き、時間が止まったような、切ない雰囲気を作り出している。