ミニ・レビュー
セカンド・アルバムはオリジナル曲のなかにパッヘルベル(5)とラヴェル(6)を組み込んだ全11曲で、軽やかな印象の佳作。なによりもギターを弾いているときの、押尾の“楽しさ”が伝わってくるところが素敵だ。おかしな背伸びをしていないから、聴き手の耳も素直になってしまう。
ガイドコメント
驚異のギター奏法で多方面から注目される押尾コータロー。2ndアルバムは、1st同様ギター1本で多彩な楽曲表現に挑戦。クラシック曲「ボレロ」「カノン」のカヴァーには感嘆させられる。
収録曲
01SPLASH
メジャー2枚目のアルバム『Dramatic』のオープニングを飾るスピード感あふれるナンバー。いわゆる“オープン・チューニング”ならではの響きの良さと、俗に“チャ”と言われるオフ・ビートのフレットを叩く音などが特徴的。本曲のようなポジティヴさ全開の楽曲には、押尾コータローの前向きな性格が感じられる。
02太陽のダンス
TBS系情報番組『いちばん!』のテーマ曲にもなった押尾コータローらしい軽快なナンバー。タッピング・ハーモニクスではじまるイントロやリズミカルなフレージングなど、いかにも太陽がダンスをしているかのよう。マイケル・ヘッジズを彷佛とさせる壮絶プレイが満載で、彼の楽し気な心持ちがひしひしと伝わってくる。
03風の詩
北海道は富良野の白銀の世界をイメージして作曲されたバラード。派手な演奏法を控えたオーソドックスなプレイゆえに、スティール・ギターならではの輪郭のハッキリしたメロディと美しいハーモニーが実に魅力的に聴こえる。NHKのテレビ50周年を記念した『南極プロジェクト』のテーマ曲として、全国に流れた曲。
04ハッピー・アイランド
TOKYO FM『HAPPY GO LUCKY』のエンディング曲にもなった、落ち着いた雰囲気のナンバー。曲調は爽やかでゆったりとしているが、随所でなにげなく高度なテクニックが駆使され、また曲調も次第にスケール感を増していくなど、細かい配慮がなされている。彼にとっての“ハッピー・アイランド”は出身地の大阪らしい。
05カノン
パッヘルベルの代表作「カノン」のカヴァー。クラシック的格調の高さを持つ原曲に対し、本ヴァージョンはフォーク的な親しみやすさを有する。有名な旋律なので聴き流してしまいそうだが、3声からなる主旋律を1本のギターで奏でるなど、極めて高度な技術に裏打ちされている。ミニ・ギターという楽器を使用しているらしい。
06ボレロ
ギター一本でオール・ジャンルの音楽を独自に表現する押尾コータローによる、クラシック曲のカヴァー。映画『愛と哀しみのボレロ』にも使われたオリエンタルな楽曲で、徐々に高まる情感豊かなギターにシビレる。
07そらはキマグレ
TBS系報道番組『あさがけウォッチ!』のテーマ曲になった明るいナンバー。自分が願うようにはなってくれない気まぐれな天気がテーマで、メロディもコード進行も極めて親しみやすく、彼のオリジナル曲のなかでも特にキャッチーな作品。米国リリース盤では「Changing Skies」というタイトルになっている。
08約束
アコースティック・ギターならではの美しい響きを堪能できるメロウ・ナンバー。押尾コータローが“信頼”というものを美しいメロディで表現するあたりに、彼の温かい人間性が垣間見られる。テクニック志向のプレイヤーと評されることが多いが、この楽曲には彼のアーティストとしての才能が凝縮されている。
09Chaser
押尾コータローに魅せられたギター・キッズたちが飛びつきそうな、テクニカルでアグレッシヴなナンバー。スティール弦風のシャープなべース・フレーズとタッピング・ハーモニクスではじまる印象的な冒頭から、全編を通して高度なプレイが満載。毎日放送『MUSIC EDGE』のテーマ・ソングにもなった人気曲。
10プロローグ
彼が音楽監督を手掛けた映画『船を降りたら彼女の島』の初恋を想い出すシーンで使用されたナンバー。1stアルバム収録の「木もれ日」の続編的なバラード曲で、遠い記憶を辿る時のしみじみとした郷愁感と甘く切ない雰囲気が見事に表現されている。決して技術至上主義でない彼の人間味を感じさせる温かいナンバーだ。
11again...
物ごとには必ず終わりがあるが、それはまた新しい出会いのはじまりでもある。そんな万物の無常をテーマにしたナンバーで、『Dramatic』のラストに収録されている。アタック・ミュート音が刻むのどかなリズムをバックに、適度なアクセントを交えながら奏でられる優しいメロディが魅力的だ。