ミニ・レビュー
10年ぶりにギル・ノートンが制作を担当した2年ぶり6枚目のアルバム。重厚かつ躍動感に満ちたナンバーを軸に、要所要所に生ギターやピアノをバックにした、しっとり系の楽曲を配した構成はオーソドックスだが、中庸の美とでもいうべきロックがここにはある。
ガイドコメント
アメリカを代表するロック・バンド、フー・ファイターズの6thアルバム。ギル・ノートンをプロデューサーに迎え、エッジの効いた激しいロック・サウンドを繰り広げている。彼ららしいエネルギッシュな一枚だ。
収録曲
01THE PRETENDER
アコースティックな響きに乗り、穏やかに歌い出されるイントロから急転直下。アグレッシヴなサウンドやヴォーカルが怒涛のごとくあふれ出し、ハイテンションな世界へ引きずり込む、アルバム『エコーズ,サイレンス,〜』のオープニングを飾るにふさわしいナンバー。
02LET IT DIE
美しいメロディを奏でるアコースティック・サウンドと溜め込んだエネルギーを一気に吐き出すかのような轟音と咆哮が、鮮やかな対比をみせるナンバー。カート・コバーンの死を思い起こさせる歌詞にも注目。
03ERASE/REPLACE
強靭なリズム・セクションと小刻みにフレーズを奏でるギターをバックに、ありったけの感情をぶつけるデイヴ・グロールのシャウトが胸に響くヘヴィ・チューン。美しいメロディの端々にどこか懐かしさを感じる、そんな一曲だ。
04LONG ROAD TO RUIN
1970〜80年代のウエスト・コースト・ロックを思わせる爽やかな疾走感とハーモニーを聴かせつつ、フー・ファイターズらしいヘヴィネス、エナジーの放出もきっちり表現したナンバー。アメリカン・ロックの正常進化ともいえる曲。
05COME ALIVE
つぶやくような抑え気味のヴォーカルとメロディアスな旋律を奏でるアコースティック・サウンドを聴かせる前半部。そこから徐々に高揚感を増していき、ヘヴィなカオス状態へなだれ込んでいく後半部。静と動の両極を一曲に収束したナンバーだ。
06STRANGER THINGS HAVE HAPPENED
フォーキーな佇まいの中にアグレッシヴな情感を秘かに内包した、ニール・ヤングを彷彿とさせるアコースティック・チューン。生ギターの乾いた響きが寂寥感を演出し、デイヴ・グロールの哀感込めた歌唱を絶妙にサポートしている。
07CHEER UP, BOYS (YOUR MAKE UP IS RUNNING)
ギター、ドラム、ベースが三位一体となって激しく畳み掛けるフレーズをはじき出す。イントロから怒涛のエンディングまで、ロックのダイナミズムをダイレクトに表現した、フー・ファイターズのアクティヴな面を象徴するナンバー。
08SUMMER'S END
ぶっといギターの音とそれを支える強靭なリズム・セクションのタフでワイルドなサウンドや、デイヴ・グロールの愁いを含んだヴォーカルは、ニール・ヤングの作品を想起させる。土埃舞う荒地を疾駆するようなヘヴィ・チューンだ。
09BALLAD OF THE BEACONSFIELD MINERS
驚異的なテクニックの持ち主として知られ、数多くのミュージシャンと共演し、ソロ作も発表している女性ギタリスト、カーキ・キングをゲストに迎えた生ギターによるインストゥルメンタル。小品ながら味わい豊かなナンバー。
10STATUES
デイヴ・グロールによるピアノをフィーチャーしたミディアム・チューン。緩やかに流れゆく雲のような、ゆったり感と柔らかさを持ったスケール豊かな曲で、フー・ファイターズが獲得したいい意味での大人の余裕を感じさせる。
11BUT, HONESTLY
マイルドな響きを紡ぐアコースティック・ギターをフィーチャーした穏やかな前半から、堰を切ったように奔流が暴れまくるアグレッシヴな後半への変化がスムースかつ鮮やか。フー・ファイターズの二面性を巧みに表現したナンバーだ。
12HOME
デイヴ・グロール本人がピアノを弾きながら、切々と感情込めて丁寧に歌い綴るスロー・ナンバー。ある種、達観した心境を描いた歌詞の中で、“今の望みは家に帰ることだけ”というフレーズがもの悲しさとともに親近感を抱かせる。
13ONCE & FOR ALL
ズッシリとした手応えを与えるサウンドと、それをしっかり受け止めて力強い歌唱を聴かせるデイヴ・グロールのヴォーカルが一体となったヘヴィ・チューン。クールなフレーズを奏でるクリス・シフレットのギターも印象的だ。
14SEDA
牧歌的な雰囲気をたたえた、シャッフル調の軽快なアコースティック・ナンバー。クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングなど、1960〜70年代のカントリー/ウエスト・コースト・ロックのバンドがやっても似合いそうな、ハートウォーミングな魅力がある。