ミニ・レビュー
河村隆一がJ-POPのエヴァーグリーンのカヴァー曲集とは、なんとも意外な企画と感じたが、聴けばそのアレンジの良さと河村のヴォーカルに引き込まれる。この作品で、河村はソロ・シンガーとしての新境地を開いたのかもしれない。ボチェッリのカヴァー(15)は聴きもの。
ガイドコメント
河村隆一にとって初となるカヴァー・アルバム。“LOVE”をテーマに1960〜90年代までの名曲を、自身がセレクト。色気のある彼のヴォーカルと往年の名メロディが、これまでとは違った世界観を繰り広げる。
収録曲
01花の首飾り
沢田研二が在籍したGSバンド、タイガースのナンバーを、ヴァイオリン、アコギ等のストリングスのみの伴奏で歌い上げる。河村独特の色気のある歌い回しで、優しく美しい演出となっている。
02「いちご白書」をもう一度
荒井由実時代の“ユーミン”の大ヒット曲。ピアノとアコースティック・ギターをバックに、オリジナル以上の哀愁を醸し出している。情感を込めて歌われるメロディを聴いていると、たまらなく切ない気持ちになってくる。
03ブルースカイブルー
西城秀樹のヒット曲。オリジナルは壮大な感じの曲だったが、本作では全体的にソフトで優しい感じのアレンジを施している。ヴォーカルの表現力が素晴らしく、歌詞の内容を見事に際立たせたオリジナルを超えた出来だ。
04LOVE (抱きしめたい)
オリジナルは沢田研二のバラード。ゆったりしたイントロからリズム・ボックスのビートで始まるのは意外だが、ピアノとヴォーカルが入ると美しく切ないバラードになる。単調な構成では終わらせないアレンジが見事だ。
05オリビアを聴きながら
杏里の大ヒットで知られる尾崎亜美作のバラード。本作はピアノとチェロのみをバックにしたアレンジになっており、美しさをさらに強調した曲に仕上がっている。か細くも丁寧にメロディを追っていく河村のヴォーカルがハマっている。
06YES-YES-YES
小田和正作のオフコースのナンバーをカヴァー。オリジナルに近いアレンジだが、割と淡々と歌われていた曲を、昔を振り返って優しく語りかけるように歌っている。音程の幅が広いこの曲をしっかり歌える河村の技量は見事。
07スローモーション
来生たかおが手掛けた中森明菜のデビュー曲をカヴァー。オリジナルは甘酸っぱさを感じさせる曲だったが、本作は切なさいっぱいの曲になっている。歌い手によって曲の表情がまったく変わってくる、ということを認識させてくれる。
08Virginity
レベッカの初期のヒット曲。バックのアレンジのせいか、オリジナルよりも全体的にソフトな印象を受ける。艶っぽい歌い方も曲にマッチしており、河村の歌手としての力量とともに、アレンジの上手さも光っている。
09恋の予感
井上陽水と玉置浩二の共作で、安全地帯の出世作となった曲。悲哀に満ちた男臭さを感じたオリジナルよりも、洗練された美しさを感じさせる仕上がりになっている。河村の持ち味が充分に活かされた曲。
10恋におちて〜Fall in love〜
“金妻”の愛称で大ヒットしたドラマの主題歌でもあった、小林明子のデビュー曲をカヴァー。美しく艶っぽい、聴かせる歌唱は、オリジナルほど仰々しくなく、曲をしっとりさせてくれている。それ以上に、河村の声の音域の広さには驚かされる。
11真夏の果実
サザンオールスターズのヒット曲をカヴァー。アコースティック・ギターとマンドリンの伴奏を中心することにより、バラード色を濃くしたアレンジになっていて、曲がより切なく響いてくる。夏の暑い時期に、爽やかで涼しい風を運んでくれそうなナンバー。
12OH MY LITTLE GIRL
尾崎豊の名バラードをカヴァー。アレンジがオリジナルとほぼ同じだけに、歌い手の技量と個性を際立たせる、ある意味チャレンジともいえるカヴァーだが、ここでは河村の個性と魅力を充分アピールすることに成功している。
13愛燦燦
美空ひばりの晩年の曲をカヴァー。ジャズっぽく洗練されたアレンジのバラード曲に仕上がっており、河村お得意の美しさを感じさせるヴォーカルが絶品。時に力強ささえも感じさせ、また、間を充分に活かしたピアノも美しい。
14I for You
LUNA SEA時代の曲をセルフ・カヴァー。アコースティック・ギター1本で歌い上げている。オリジナル曲を改めて採り上げ、新たな解釈や再び新鮮な息吹きをかける河村の、シンガーとしての成長と懐の深さが伝わってくる。
15Time To Say Goodbye
アルバム『evergreen〜あなたの忘れ物〜』のボーナス・トラックに収録の、ストリングスを加えたライヴ録音曲は、河村の実力と表現力の高さに驚かされること間違いなしの1曲。オペラ歌手のアンドレア・ボッチェリのカヴァーで、難しい曲をここまでしっかりと歌い切るのは見事の一言!