ミニ・レビュー
個性派ラッパー、前作に続いてカニエ・ウェストの制作によるもの。ヒップホップ主流とは一線を画すイマジネイティヴなトラックに、不思議と何かが伝わる声を飄々と乗せる。豊かな奥行きあり。アフリカン・アメリカンはいろんな道に進むべき、そんな気概も感じる。
ガイドコメント
シカゴ随一のリリシスト、コモンの2007年7月発表の7thアルバム。カニエ・ウェストとのコラボ作で、ディアンジェロやリリー・アレンなど、ゲスト陣も豪華。2006年に他界したジェイ・ディラに捧げられている。
収録曲
01INTRO
アルバム『ファインディング・フォーエヴァー』の幕を開ける1分強のイントロ。エレピとドラムにストリングスが加わって創り出す幻想的な世界観を味わえるスロー・トラックだが、そのままスリリングな次曲「スタート・ザ・ショウ」へとなだれ込んでいく。
02START THE SHOW
カニエ・ウェストのプロデュースによる物々しい雰囲気も漂わせるスリリングなトラック。カニエとコモン2人が出身のシカゴへの郷土愛とリアルなMCが誰であるかを説きつつ、ショウのスタートを宣言している。“ラウド!”と叫んでカット・アウトするラストもクール。
03THE PEOPLE
ギル・スコット・ヘロン「ウィ・オールモスト・ロスト・デトロイト」を用いたアルバム『ファインディング・フォーエヴァー』の先行シングル曲。ドゥウェレのフックが全篇に走る緊張感をほどよく解いている。コモンがストリートに向けて捧げたトラック。
04DRIVIN' ME WILD
ファルセット使いのバックが耳に残る、リリー・アレン客演曲。自分の恋愛をしっかり見つめ直さなきゃというテーマを、独創性あふれるポップなサウンドに乗せて表現。ニュー・ロータリー・コネクション「ラヴ・ハズ・フォーレン・オン・ミー」をサンプリング。
05I WANT YOU
ボブ・ジェイムス「フィール・ライク・メイキン・ラヴ」を使った、ウィル・アイ・アム制作曲。ウィル独特の物憂げな雰囲気を持った打ち込みのビート・トラックで、シンセがよく映えている。“お前が必要なんだ”と迫るラヴ・ソング。
06SOUTHSIDE
ラップとプロデュースでカニエ・ウェストを迎えたナンバー。コモンの出身地のシカゴ・サウスサイドについて著名人の名を採り入れながら語っていく内容で、バンピングなギター・サウンドが高揚感をもたらしている。
07THE GAME
DJプレミアのスクラッチを導入したオールドスクール風トラック。制作のカニエ・ウェストが狙いとするヒップホップ・クラシック的なアプローチが絶妙に発揮され、セイフー・ヨハネス「テゼタ」というエチオピア・グルーヴを用いることで古き良き時代の空気を強めている。
08U, BLACK MAYBE
スティーヴィー・ワンダー「ブラック・メイビー」からアイディアを拝借したソウルフルなナンバー。黒人が迷い込みそうな人生の一例を示しながら、あらゆる人種差別に対しての憂いを綴っている。説得力あるラストのポエトリー・リーディングにも注目。
09SO FAR TO GO
アイズレー・ブラザーズ「ドント・セイ・グッド・ナイト」を敷き詰めたミディアム・スロー・ソウル。ディラによる制作曲で、ディアンジェロの透き通ったファルセットとそれに寄り添うコモンのフロウとの邂逅は、美しい限りだ。
10BREAK MY HEART
ジョージ・デューク「サムデイ」をサンプリングした懐古的なサウンド・プロダクションがいかにもな、カニエ・ウェストのプロデュース曲。2006年に急逝したJ・ディラへのオマージュ的な要素が垣間見られるラヴ・ソングだ。
11MISUNDERSTOOD
ニーナ・シモンの「悲しき願い」が全篇に重くのしかかるように配されたデヴォ・スプリングスティーン制作曲。悪環境で生活する人々が夢を実現しようとするも迷い、誤解を受けてしまう経緯を歌ったナンバーで、心身に染みわたるような重厚さが特徴。
12FOREVER BEGINS
J・ディラへの追悼の意を示しつつ、人類愛という壮大なテーマについて語ったカニエ・ウェスト制作曲。ドラムとピアノがリードする明るめのイントロとコモンの父、ロニー・リン・Jr.によるナレーションで厳粛に幕を閉じるアウトロとの対比が興味深い。
13PLAY YOUR CARDS RIGHT
ビラルが参加したアルバム『ファインディング・フォーエヴァー』のボーナス・トラック。ジョー・バターン「アンダー・ザ・ストリート・ランプ」を敷いたラテン・ソウル風の制作はカリーム・リギンス。最後の選択を間違えなければすべて上手くいくと歌う。