ミニ・レビュー
3作目。シュガー・レイやサブライムなどのヒット作を手がけてきたデヴィッド・カーンと組み、よりメロディを聴かせることに重きを置いた内容にシフト・チェンジ。ドラマティックで抑揚のついた展開ながら演奏面でのボトムの太さも失われていない。
ガイドコメント
新世代の潮流を生み出したNY出身の5人組、ザ・ストロークスの3rdアルバム。デヴィッド・カーンをプロデューサーに迎えた本作は、よりスケールの大きくなったサウンドが堪能できる。
収録曲
01YOU ONLY LIVE ONCE
バッキバキに固められた硬質のビートと突き抜けるようなクリアなギター・カッティング。音もバンドも格段に飛躍したことを見せつける、新生感たっぷりのミドル・チューン。奔放なジュリアンのヴォーカルが胸に響く。
02JUICEBOX
野太いベース・ラインに牽引され、獰猛なサウンドが牙を剥いて襲い掛かるハイ・テンションなロックンロール・ナンバー。めくるめく速度で加速・炎上・爆破を繰り返すオーヴァーランなエネルギーの塊のような凄まじさが体験出来る。
03HEART IN A CAGE
スカスカなガレージ・サウンドというイメージを一瞬で払拭させるヘヴィなグルーヴを展開。ほとんどハード・メタル的ともいえる高速アルペジオが、ドラマティックで壮大な世界観を生みだしている。
04RAZORBLADE
シャープなギター・カッティングと鋭いアルペジオが繰り広げるサウンドは、まさに「カミソリの刃」。極限まで無駄を省いた、タイトで研ぎ澄まされたロックが、芸術的ともいえる妖しい美しさを放っている。
05ON THE OTHER SIDE
痙攣するようなアルペジオのフレーズとどこかしらドアーズを彷彿とさせる陰鬱なメロディが相まって、独特の世界を構築。ダークでありつつもメロディアスに仕上げることで、きちんとポップに昇華しているあたりに巧さを感じる。
06VISION OF DIVISION
ガシガシと刻まれるリズム・ギターからメタル風の速弾きプレイまで、ギター・サウンドがさまざまな顔を見せてくれる一曲。変幻自在に変化する音色は、まさに凝縮されたプログレともいうべきダイナミックさ。この曲だけでお腹いっぱいになれる程の満足感。
07ASK ME ANYTHING
メロトロンとジュリアスのヴォーカルのみで構成されたシンプルな一曲ながら、ミニマリズムの極地ともいうべき独特のフレーズが無限の情景を思い起こさせる。生まれながらにして既にクラシック並みのエレガントさを内包している。
08ELECTRICITYSCAPE
メランコリックなメロディと疾走するギター・フレーズ、そして祈るような歌声。どこかしら初期レディオヘッドを彷彿とさせるUKフレイヴァー漂う一曲。暗闇を内包した美しさが、圧倒的な存在感をもって迫ってくる。
09KILLING LIES
水の波紋のように広がっていく音のグルーヴが心地よいミドル・チューン。ゆっくりと静かではあるが、外側に向かえば向かう程、波が大きくなっていくような確かな強さを秘めている。ベースのニコライが作曲に参加。
10FEAR OF SLEEP
ヴォーカルのフレーズをギターが並列して鳴らすという奇妙なAメロから一転、サビでは鬱屈とした感情を大爆発させたエモーショナルなサウンドスケープを展開。タイトル通り、「未知なる不安」を体現した一曲といえよう。
1115 MINUTES
初の本格的なバラード・ナンバー……かと思いきや、後半は急転してスピーディなロックンロールに。前半と後半で全く違う顔を見せ、そのどちらもが一曲でも成立するものなのに、こうしてまとめてしまうところが実に天の邪鬼なストロークスらしい。
12IZE OF THE WORLD
シンプル・コード展開を基盤としつつも、アレンジ面でアルペジオを多用するなどして、ぐっとメロディアスに仕上げた印象。サビでのジュリアンの絶叫にも似たヴォーカルがドリルのように胸をえぐる。
13EVENING SUN
最低限の音だけを鳴らし、最低限のセッションのみで紡がれる無駄を一切省いた静かな一曲だが、音の間にある緊迫感はかなり高い。表面張力ギリギリで保たれている水面のような、決壊直前のエネルギーの塊ともいうべき熱さを内包している。
14RED LIGHT
バウンシーなビートの上を縦横無尽に駆けめぐるメロディアスなアルペジオから生み出される、奇妙なファンシーさを持ったドリーミー・サウンド。悪趣味でありつつも洗練された、なんとも毒々しいエレクトリカル・パレードだ。