ミニ・レビュー
彼らの4枚目のフル・アルバムは、英国グラスゴーで2006年秋にレコーディング。ROVOの益子樹がメンバーとともにプロデュースした。リアルな信条を歌いながらも“飛ぶ”“落ちる”などの不思議な感覚を持った珠玉のロック集。蝶を描いた芸術性の高いジャケットにも注目だ。
ガイドコメント
先行シングル曲「テュペロ・ハニー」同様、ROVOなどの活動で知られる益子樹が全面参加した注目の4thアルバム。洋楽的な質感をともないつつも程よくキャッチーな仕上がりで、彼らの着実な進化が感じられる。
収録曲
01Beautiful Monster
トラックをリードするゴリゴリのベース・ラインが特徴的な、4thアルバム『Flora』のオープニング・ナンバー。ダークな作風を得意とする木下理樹の“生きれそうな気がするんだ”の一言が、抜群の説得力を持って胸に染み入ってくる。
02テュペロ・ハニー
ギターのカッティングが印象的なイントロから躍動感たっぷりにスタートするパワー・ポップ・ナンバー。プロデューサーの益子樹によるシンセのサウンドとにかくかっこいい。普遍的なギター・バンドとはまた一味違う、高いセンスがあふれる1曲。
03Nowhere land
ROVOなどで知られる益子樹のプロデュースによる、メリハリの効いたリズム隊とささやかなシンセサイザーが特色の個性あふれるナンバー。“どこでもない場所へ連れて行きたいんだ”と歌う、木下の幻想的で儚げなヴォーカルも秀逸だ。
04影待ち
シンプルなギターのアルペジオと過不足のないリズム隊に支えられ、淡々と言葉が綴られていくミディアム・ナンバー。“信じることは、裏切られるよりも苦しい”と歌われるナイーヴな世界観と、それを取り巻く美しいハーモニーの対比が美しい。
05アダージョ
充実したバンド・サウンドが楽しめるシューゲイザー風ナンバー。絡み合いながら発展していく2本のギター・アンサンブルが聴きどころ。“どんな痛みもむしろそのままでいい”と懇願するように歌う木下の言葉も印象的だ。
06Close your eyes
センシティヴなギターのアルペジオが特徴的な、アメリカン・インディ風のミディアム・ナンバー。安定したリズム隊がきっちりと枠組みを作るなか、嘆くように「あぁ」と繰り返す、木下のみずみずしいヴォーカルが深い余韻を残す。
07LUNA
ムーディなシンセの響きとダークなギターが幻想的な世界を織りなすミディアム・ナンバー。「男らしく生きろなんて云われ続けて狂った」という詞に象徴されるように、周囲から浮いてしまう自分を客観視した詞世界がいかにも彼ららしい一曲だ。
08Mary Barker
カントリー風のギター・ストロークが軽快に響くパワー・ポップ・チューン。スーパーカーとの仕事でも知られる益子樹がプロデュースを担当した影響もあってか、シンセサイザーが効果的に張りめぐらされ、厚みのある音世界が作り上げられている。
09SWAN DIVE
教会の鐘のような音から始まる、柔らかなバラード・ナンバー。ギターもシンセサイザーもベルを鳴らすような優しい響きを聴かせ、幸せだった恋の記憶を綴ったと思われる淡く儚い歌詞を上手に包み込んでいる。真摯な歌声も心に染みる。
10SAD SONG
「苦しんだ分だけ強くなる、そうじゃねえ弱くなったんだ」というネガティヴな歌詞が際立つ、ささくれだったナンバー。荒廃した世界観を作り上げるギターや疾走感のあるリズム隊など、好調さを思わせる充実したバンド・サウンドが展開されている。
11Piano
タイトルどおり、シンプルながら幻想的なピアノをフィーチャーしたナンバー。ギターやドラムが主張しすぎることなく、ピアノの流麗な響きを際立たせている。「君を待っている」と繰り返す、弱々しくも芯のあるヴォーカルも印象的だ。
12IN THE BLUE
かつて俺には感情があった、という寓話的な歌詞を、シンセサイザーを駆使した幻想的なサウンドで包み込んだミディアム・ナンバー。ギターのゆがみ具合からドラムの強弱まで、プロデューサー益子樹との相性の良さを感じさせる見事な出来栄えだ。
13THIS IS YOUR MUSIC
USギター・ポップ直系のポップ・ナンバー。キャッチーなコード展開やリズム隊の爽快な疾走感と、内省的な世界観を描き出す木下のヴォーカルとのギャップが、一筋縄ではいかない彼らのアイデンティティを示しているかのようだ。
14光と身体
陰りのあるバンド・サウンドを聴かせるミディアム・ナンバー。フォーク・ロック風の細やかなギターが作り出す荒廃的なサウンドの中で、「手を繋いでいよう」とささやかれる歌詞が儚く切なく胸に響き、深い余韻を残す一曲だ。
15Low heaven
アナログ風に味付けされたギターやシンセサイザーが温かな雰囲気を醸し出す、4thアルバム『Flora』のクロージング・ナンバー。静けさの中にもどこか希望を感じさせる優しいヴォーカルが印象的な一曲だ。