ミニ・レビュー
テレビ出演が増え、キャラクターも異能であることが分かってきた天性の女性ヴォーカリストの3作目となるアルバム。新旧とりまぜた11の楽曲をカヴァーしているのだが、それぞれの曲で彼女にしか出せない結果を出しているのがスゴい。続けるべき企画だ。
ガイドコメント
「Jupiter」のヒットを受け、彼女の歌声でこの曲が聴きたいというリクエストに応えて生まれた企画アルバム。70〜80年代の日本のヒット・ポップスから映画主題歌までを歌い上げる。
収録曲
01晩夏 (ひとりの季節)
荒井由実時代の最後のアルバム『14番目の月』のラストに収められていた曲を、オリジナル・プロデューサーである松任谷正隆を迎えてカヴァー。晩夏から初秋へと至る季節の移ろいを思春期の終わりに重ねあわせたユーミンの隠れた名曲を、平原綾香ならではの深みのある歌声で奥行きたっぷりに表現している。
02言葉にできない
小田和正がオフコース時代に書き上げた、思わず胸がキュンとなる珠玉の名バラード。平原綾香は、デビュー前に録音したデモ・テープで、すでにこの曲を取り上げたことがあるそうで、それだけに見事に自分流に染め上げて歌っている。プロデュースは、小田和正のレコーディングではおなじみのギターの名手、佐橋佳幸が担当。
03いとしのエリー
誰もが知っているサザンオールスターズの名曲を、プロデュースを務めたゴンチチらしいボサ・ノヴァ・アレンジで小粋にカヴァー。「Jupiter」に代表されるようなスケール感のあるバラードのイメージが強い平原綾香だが、こうした軽いテイストも悪くない。どこかアストラッド・ジルベルトを連想させる歌い方と雰囲気だ。
04いのちの名前
映画『千と千尋の神隠し』のテーマ曲として書き下ろされた久石譲の名曲をカヴァー。なんでも、平原綾香自身デビュー前から「いつかは歌ってみたい」と夢みていたとか。久石譲のピアノ演奏と、それにあわせて歌ったヴォーカルをそのまま収録しているが、もう何年も歌っているような解釈による歌唱が実に見事だ。
05Missing
久保田利伸が89年のデビュー・アルバムで発表した珠玉のバラード。男性のかなわぬ恋心を切々と綴った曲だけに、女性である平原綾香が果たしてどんな解釈を示すのか、と注目したが、これがバッチリとハマっていてビックリ。切なすぎる“I LOVE YOU”というフレーズにじっくりと浸ってください。
06秋桜
さだまさしが書き、山口百恵が歌った昭和の名曲。平原綾香ヴァージョンでは、原曲のしっとりとした風情から一転、アーバンでソウルフルなヴァージョンに仕上げており、“昭和”から“平成”へという時間の経過を実感させてくれる。「名曲は時代を超えて歌い継がれる」ことを再確認させてくれる詞とメロディ、そして歌唱だ。
07TRUE LOVE
藤井フミヤのオリジナル・ヴァージョンと、同じスタジオ、アレンジャー、ギタリスト、エンジニアという環境でレコーディングされたそう。とはいえ、この平原綾香ヴァージョンは、オリジナルとはガラリと雰囲気を変えたアヴァンギャルドな仕上がり。メロディの良さを残しつつ、2005年版の「TRUE LOVE」を聴かせている。
08桜坂
福山雅治と親交も深い、日本を代表するアコースティック・ギターの名手、吉川忠英がプロデュースを担当した平原綾香版「桜坂」。吉川の弾くギターをバックにしっとりと歌い上げ、楽曲の持つ切ない情感を、シンプルに豊かな歌心で聴かせる。平原綾香の本領が発揮された逸品だ。
09なごり雪
伊勢正三がかぐや姫時代に書き、その後イルカにプレゼントされ大ヒットした70年代のフォーク・クラシック。本ヴァージョンでは、総勢37名の大編成オーケストラをバックに、壮大さと静寂とが同居したような仕上がりに。雪がしんしんと降り注ぐなか歌う、平原綾香の姿が目に浮かぶようだ。
10翼をください
音楽の教科書にも掲載されているJ-POPクラシックともいえるヒット曲で、オリジナルはフォーク・コーラス・グループの“赤い鳥”(1971年)。本ヴァージョンでは、東京事変のメンバーとしてもおなじみの亀田誠治をプロデューサーに迎え、ロック色全開の新鮮な仕上がりとなっている。これぞ“平成版「翼をください」”といった感じだ。
11あなたに
ヒット曲「ワインレッドの心」が収録された安全地帯の出世作『安全地帯II』に収められていた、松井五郎&玉置浩二のゴールデン・コンビによる初期の隠れた名曲。島健のプロデュースによる流麗なストリングスに包まれ、平原綾香の優しい歌声が天高く舞い上がっていくような、極上の仕上がりだ。