ガイドコメント
初めての2枚組LPとして1973年に発表された傑作アルバム。ヴァラエティに富んだ内容ながらクオリティが高いポップ作で、大ヒットしたタイトル曲や「キャンドル・イン・ザ・ウインド」の原曲などを含むヴォリューム満点の1枚。
収録曲
01葬送〜血まみれの恋はおしまい (メドレー)
02キャンドル・イン・ザ・ウィンド
03ベニーとジェッツ (やつらの演奏は最高)
観客の拍手や歓声を挿入した擬似ライヴ仕様によるR&B調の曲。ベニーという名の女性ロック・スターが率いる架空のバンドについて、ファルセットを多用したヴォーカルで歌っている。米国では黒人音楽系ラジオ局から火がつき、全米No.1ヒットを記録した。
04グッバイ・イエロー・ブリック・ロード
05こんな歌にタイトルはいらない
ピアノ、メロトロン、オルガンなど、さまざまな鍵盤楽器をフィーチャーした風変わりなバラード。ポール・サイモンやランディ・ニューマンのタッチを連想させるメロディやサウンドが楽しめる。自身の混乱状態を詩的に表現したバーニー・トーピンの歌詞も秀逸。
06グレイ・シール
ナンセンスな歌詞とフリーキーな音楽を組み合わせたエルトン流ノベルティ・ソング。狂騒的な編曲と不条理な展開が面白い。エルトンの一人二重唱も楽しいし、賢いといわれる“灰色アザラシ”にもわからないようなエルトンの意味不明な歌詞もおかしい。隠れた珍曲。
07碧の海、ジャマイカにおいで
レゲエ・ドゥワイトとトゥーツ・トーピンによるレゲエ調ノベルティ・ソング。擬似レゲエ・ビートやカリビアンなコーラスをフィーチャーした賑やかなサウンドが楽しめる。レゲエに対するアプローチに悪意がないせいか、ほぼ全面的な肯定性が心地よく響く。
08僕もあの映画をみている
たとえばフィルムノワールの音楽版のような、笑っちゃうほどメランコリックなバラード。いかにも映画マニアが口走りそうな表現を満載したコミカルな歌詞とシリアスな曲調とのミスマッチがおかしい。ウディ・アレンの初期の映画に近い感覚がここにはある。
09スウィート・ペインテッド・レディ
ノスタルジックなメロディが美しいバラード。アコーディオンやオーボエをフィーチャーしたレトロなサウンドが聴き手を酔わせる。船乗りと娼婦の一夜の物語だが、音楽が美しく表現もユニークだから、下世話にはならない。隠れた名曲といえる。
10ダニー・ベイリーのバラード (ケンタッキーの英雄の死)
若くして殺されたダニー・ベイリーについて歌ったバラード。エルトンの歌声に絡むコーラスとストリングスが面白い。架空のギャングスタの人生を歌にする、という発想がエルトン&トーピンらしい。映画化してみたいと思うほどの情報を詰め込んだ1曲。
11ダーティ・リトル・ガール
タイトルの通り“汚い少女”についての歌。比喩的な表現だとしても、ストレートに解釈したほうが面白い。粘り腰のビートに乗って懸命に歌うような主題かどうかはともかく、メロトロンの乱暴な使い方も含めて、ヤクザなロックンロール・バンドらしいノリが快感。
12女の子、みんなアリスに首ったけ
多くの少女たちに愛された少女アリスの短い人生についての歌。アップ・テンポのロックンロールとスローなバラードを合体させたやや強引な構成が面白い。自由について歌っている、という解釈が妥当だろうか。キキ・ディーがコーラスで参加している。
13ツイストは踊れない
ジェリー・リー・ルイスからビーチ・ボーイズまで、ロックンロールとツイストの歴史を1曲の中に凝縮したエルトン流ノベルティ・ソング。フレディ・キングやチャビー・チェッカーらも含めて、160秒間で10曲は聴いたような気分にさせてくれるお徳用ロックンロール。
14土曜の夜は僕の生きがい
15歌うカウボーイ、ロイ・ロジャース
1950年代に英国で放映されていた“The Roy Rogers Show”に触発された少年時代を主題にした曲。ペダル・スティール・ギターとストリングスをフィーチャーしたサウンドがノスタルジックな世界へと誘うカントリー調のバラード。エンディングのSEも効いている。
16こんな僕こそ病気の典型
バンジョーをフィーチャーしたニューオリンズ調の曲。ニューオリンズ産のジャズ、カントリー、ファンクを1曲の中に凝縮したようなサウンド。酒浸りの日々を送る“社会病の見本”の消極的な独白を陽気に歌う。否定的な歌詞を肯定的に歌うスタイルが楽しい。
17ハーモニー
エルトンならではの美しいメロディを贅沢に詰め込んだバラードの名曲。オーケストラとコーラスをフィーチャーしたゴージャスなサウンドをバックに、珠玉のメロディを鮮やかに歌い上げる。2分46秒が一瞬に感じられるほどメロディアス。誰もが一度は聴いておきたい。