ガイドコメント
キャリアの絶頂期だった97年に突如として凶弾に倒れたヒップホップ界の伝説、ザ・ノトーリアス・B.I.G.。本作は悲劇の死から10年となる節目の2007年に放たれる、初のグレイテスト・ヒッツ・アルバムだ。
収録曲
01JUICY
ブラック・コンテンポラリーの古典、エムトゥーメイの「JUICY FRUIT」からフレーズをいただいたビギーの記念すべき出世作。キャッチーなトラックとビギーのぶっきらぼうなラップの混ざり具合や、サビを担当するトータルの歌声が気が効いていて良い。
02BIG POPPA
湿気にあふれたトラックはアイズレー・ブラザーズの「BETWEEN THE SHEETS」からの贈り物。サビでノイズ加工が施された「ビッグ・ポッパって呼ばれるのが好きだ!!」のフレーズに、ビギーの茶目っ気が詰まっていて胸をうたれる。
03HYPNOTIZE
ビギーの死と時を同じくしてヒット・チャートを駆け上がっていった大ヒット曲。ビギーがノリにノってラップしている画が浮かんでくる。ハーブ・アルパートの「ライズ」に1回だけ出てくるフレーズを全編にフィーチャーしているアイディアは、なんとも洒脱だ。
04ONE MORE CHANCE/STAY WITH ME
デバージの「ステイ・ウイズ・ミー」を流用したミディアム・チューン。アシャンティが「フーリッシュ」でこのいただき方をまねてヒットさせている。フェイス・エヴァンスのしなやかなスキャットと透明感のあるトラックが放つ輝きがまぶしい。
05GET MONEY
ジュニア・マフィアの3rdシングルとしてヒットした変則ヒップホップ。「ゲット・マネー」をなぞるメロディが、内容はエグイがサウンドがフワフワしていて和ませてくれる。ループはオリジナルではないが、アレンジや構成にオリジナリティがあふれている。
06WARNING
16ビートのシャッフルにビギーの3連符ラップが心地よくのる正統派ヒップホップ。スネアがたたき出す重厚なビートがひたすらクリアに体に響いてくる。きな臭い物語仕立ての内容は聴いているだけでビデオ・クリップを観ている雰囲気だ。
07DEAD WRONG
フィーチャリングにエミネム、プロデュースにマリオ・ワイナンズ、パフ・ダディらを擁する強力な曲。ベース・サウンドを粉砕しそうな勢いで迫ってくるビギーの重低音ラップや、オケ・ヒットがうまく重ならないようなアレンジが秀逸だ。
08WHO SHOT YA
幻想的なピアノとパフ・ダディのウィスパーが意味深なドキュメント仕立ての曲。「フー・ショット・ヤ」の「ヤ」は2パックのことで、ショー・ビジネスの中で正気でいることの難しさや混沌がサウンドにそのまま反映されている狂おしいアレンジだ。
09TEN CRACK COMMANDMENTS
DJプレミア制作のシンプルなヒップホップ。サンプリングのお遊びやスクラッチが随所にちりばめられたアレンジは、プレミアならでは。楽曲としての完成度もさることながら、1DJ対1ラッパーの組み方を楽しみたい曲だ。
10NOTORIOUS THUGS
スティーヴィー・Jとパフ・ダディのプロデュース・ワークが光る、シングル曲に匹敵する佳作。フィーチャリングのボーン・サグスン・ハーモニーが抜群のポテンシャルを発揮しており、ボーンのフィールドでビギーが飛び回っている感じが面白い。
11NOTORIOUS B.I.G.
デュラン・デュランのヒット曲「ノトーリアス」をサンプリングしたベタな曲。ひねりはないが、フィーチャリング参加しているパフ・ダディ(当時)の80's魂があふれている。ビギー、リル・キムも楽しげにラップしており、極上の娯楽作品に仕上がっている。
12NASTY GIRL
ビギー不在のレコーディングはラップに合わせてトラックを作っていき、のせていく作業になるが、この曲は原曲の「ナスティ・ボーイ」より、ビギーが生き生きとして聴こえる秀作。アメリカよりもイギリスで大ヒットを記録したキャッチーなヒップホップだ。
13UNBELIEVABLE
サンプリングとスクラッチで盛り上げるDJプレミア制作のダビーな作品。R.ケリーの「ユア・ボディーズ・コーリン」の引用もユニークで、これぞヒップホップの楽しい作り方といった感じ。ライムの定義を超越したビギーのラップも興味深い。
14N***AS BLEED
ギャングスタ・ラップの真髄を感じさせる語部(かたりべ)としてのビギーがここにいる。迫力は吠えるよりも落ち着きを払った演出のほうが威力が増すことを教えてくれる。きな臭く響くリム・ショットがビギーの語りを鬼気迫るものにしているアレンジも良い。
15RUNNING YOUR MOUTH
ファボラス、ネイト・ドッグ、ビギー、バスタ・ライムス、フォクシー・ブラウン、スヌープ・ドッグが登場するヒップホップ好きには垂涎もののボーナス・トラック。中でもバスタ・ライムスがみせる自身の作品にもないぐらいの勢いが圧巻。
16WANT THAT OLD THING BACK
ギター・アレンジに工夫ありのオケ・ヒット満載のサウンド。ひずみが心地良いジャ・ルールのラップとニュー・エディションのラルフ・トレスヴァントの透き通ったヴォーカルが好対照で良い。ビギーのぶっきらぼうなボブ・ディラン方式のラップも絶好調だ。
17 !*@ YOU TONIGHT
洗練された情感が漂う90年代の香りプンプンのR&Bサウンドはパフ・ダディのクレジットもあるが、フィーチャリングのR.ケリーによるところが大きい。メロウな作品で見せるビギーのさまざまな表情に、伝説となった才能の由縁を強く感じる。
18MO MONEY MO PROBLEMS
ビギーの追悼曲「I'LL BE MISSING YOU」を抜き去り、この曲が全米ナンバー1になった事実は音楽ファンの心にいつまでも残る。メイスの振り絞るようなヴォーカルとパフ・ダディのパフォーマンスが、やさしくビギーを包み込んでいる作品だ。