ガイドコメント
1973年発表の輝かしきデビュー・アルバム。当時“第2のボブ・ディラン”と売り出されたのもうなずける、弾き語りを主体にしたブルースの歌が聴ける。ただし彼ならではのリアルなストリート感覚も。
収録曲
01BLINDED BY THE LIGHT
一気に解き放たれたかのような言葉の奔流に圧倒される曲。サックスをフィーチャーしたロックンロール・サウンドに乗って、無数のイメージがちりばめられた詞が歌われる。その後のスプリングスティーンのブレイクを予感させる桁外れの勢いがここにはすでにある。
02GROWIN' UP
ロックンロールの重要な主題のひとつである“成長”について歌った曲。ピアノのアルペジオから始まるフォーク・ロック調のサウンドをバックに、仮面舞踏会から宇宙船まで、さまざまな比喩を駆使しながら、大人になりつつある若者の心情を詩的に歌っている。
03MARY QUEEN OF ARKANSAS
1stアルバムでは唯一のアコースティック・セットによるバラード。アコギとマウスハープのみの伴奏で“アーカンソーの女王メアリー”に向けて歌っている。徐々に熱を帯びていくエモーショナルなヴォーカルと荒っぽいギター・ストロークが、いかにも彼らしい。
04DOES THIS BUS STOP AT 82ND STREET?
ストリートを舞台にしたフォーク・ロック調の曲。アコギとピアノによるイントロがチャーミング。スプリングスティーンならではの詩的なフィルターを通して、街で生きている連中をリアルに活写している。わずか2分間の曲だが、ひとつの小さな街がここにはある。
05LOST IN THE FLOOD
ヴェトナム帰還兵、バイカー、ギャングらの生と死がドラマティックに歌われる壮大なバラード。ポエトリー・リーディングに近いヴォーカルが徐々に熱を帯びて、クライマックスにはエモーショナルなシャウトを披露する。社会性を帯びた歌詞が話題になった。
06THE ANGEL
ピアノをバックに歌われる抒情的なバラード。バイクに乗った“天使”について歌っている。限りなくポエトリー・リーディングに近いメロディだが、その語り口は充分にメロディアス。隠し味のように控えめなアップライト・ベースによるストリングスが効いている
07FOR YOU
若きスプリングスティーンらしい熱烈なラブ・ソング。ピアノやオルガンをフィーチャーしたフォーク・ロック調のサウンドをバックに、熱に浮かされたうわごとのごとき口説き文句の数々を饒舌に歌いまくる。意味よりも響きとリズムが大切。アコギの音色も効いている。
08SPIRIT IN THE NIGHT
地元ニュージャージーを舞台にしたR&B調の曲。ピアノやサックス、そしてコーラスをフィーチャーした演奏をバックに、やや演技過剰気味に歌ってみせるところが彼らしい。ニックネームで登場する地元の友人たちの中には、実在の人物も少なくないという。
09IT'S HARD TO BE A SAINT IN THE CITY
タイトルにもなった歌詞の一節で知られる最初期の代表曲。アコギとピアノをフィーチャーしたフォーク・ロック調の演奏をバックに、スプリングスティーンが歌詞のなかのストリートのヒーローたちを劇的に演じてみせる。初期の彼のスタイルを凝縮したような名曲。