ミニ・レビュー
女性シンガー・ソングライターの通算23枚目となるアルバム。セルフ・プロデュースでムダな力が抜けた歌たちが聴ける。共同プロデューサー鹿島達也のベース・プレイもキモ。初回限定盤のみ『みんなのうた』で放映された「クロ」収録のDVDとの2枚組。
ガイドコメント
ヤマハ移籍第1弾、通算では15枚目となるオリジナル・アルバム。“NHKみんなのうた”になった「クロ」をはじめ、バンド演奏によるシンプルなサウンドに立ち返った作品。やはり彼女の最大の魅力は心温まる独特の声だ。
収録曲
[Disc 1]
01休暇小屋
緑萌ゆ初夏のホリディ・ロッヂに招き入れてくれるような、心休まるメロウなナンバー。優しく始まるピアノが、やがてギターと相まってウキウキ気分に転じていく。心の解放を歌うハイトーンによるサビが特に美しく響く。
02ベージュ
静かなコーラスから始まるスロー・チューン。風を感じながら、まばゆい陽光を見つめて愛しい人のことを思うさまが、しっとりと歌い上げられる。間奏部分のチェロの音、サビ・パートのハーモニーがとてつもなく美しい。
03boy
明るいメロディと爽やかなコーラスが印象的なミディアム・チューン。都会の雑踏の中に、初恋の思い出を見出そうとしているような歌詞が切ない。生き急ぐ世界で、スロー・ダウンすることの大切さを教えてくれる楽曲。
04春の雨
春の雨を恋にたとえて、ドラマティックなストーリー仕立てで展開していくラブ・バラード。こんなに透き通ったヴォーカルで歌われると、嫌われものの雨も愛しくなる。乾いた心を潤してくれる1曲だ。
05あやとり
ピアノから始まり、ヴァイオリンとヴィオラ、チェロが加わるインスト曲。弦を糸とするならば、文字通り“あやとり”のよう。シンプルなフレーズが次第に変化していくさまは、音を使って遊んでいるみたいだ。
06faraway
一部のフレーズが日本語で、それ以外はすべて英語詞によるソフトなバラード。深い愛に包まれていた遠い過去を振り返るという内容で、ゆったりとしたピアノの調べと聴き取りやすい発音によるヴォーカルがいい。
07白い花
爽やかなポップ・テイストが漂う1曲。どことなく夏の避暑地を思わせるアレンジメントに乗せ、夢を見続けることの大切さをテーマにしたミディアム・チューン。「歌い続けよう」の歌詞は、遊佐自身のヴィジョンからのものかも。
08冬の日のW.
シリウスやカペラなどの星が構成する“ウィンター・ダブリュー”や“冬のダイヤモンド”をモチーフにしたナンバー。ウィスパー・ヴォイスで静かに語り始める導入から、やがてジャジィな雰囲気に転じるウィンター・ソング。
09エニシダ通り
静かなピアノの調べが心を癒すインスト曲。春に黄色い蝶形の花をいっぱい咲かせるエニシダだが、花言葉には「謙遜」などのほか「恋の苦しみ」もある。それゆえ、優しさの中にちょっと切ないフレーズが見え隠れしている。
10クロ
『NHKみんなのうた』でオンエアされた可愛らしい楽曲。子猫クロと過ごした楽しい日々を、軽やかな雰囲気で歌い上げる。クロとの出会い、そして切ない別れは、人間同士の普遍的なテーマにも通じていて、心に染みる。
11sweet petite
聴いて幸せになれる曲を作り続けるアーティスト、遊佐未森らしさにあふれたサマー・ソング。ウキウキ気分を誘発するキーワードが並ぶ、流れるような遊佐節は潮風のよう。アルバム『休暇小屋』の中では1番ポップな作品だ。
12コハク
シングル「クロ」のカップリングで、NHKラジオ第一放送『わたしの戦後60年』挿入曲。ピアノとスキャットのみの切ないインストで、まるで休暇の終わりのイメージ。耳あたりの良いヒーリング・ナンバーだ。
[Disc 2]〈DVD〉クロ(NHK「みんなのうた」オリジナルDVD)