ミニ・レビュー
デビュー作を350万枚も売った米セントルイス出身のヒップホップ・スターのサード作。本作ではティンバランド、ジャーメイン・デュプリら、多くのスター・プロデューサーを招き、多彩なリズム・トラックをバックに半自伝的なゲットー・ソングやパーティ・ソングを聴かせる。
ガイドコメント
“ミッド・ウェストのカリスマ”ことチンギーの3rdアルバム。ジャーメイン・デュプリやDJ QUIKといった豪華プロデューサーを迎えた力作。Tyreseをフィーチャーしたメロウな「Pullin' Me Back」など、話題曲が満載。
収録曲
〈HOOD SIDE〉
01INTRO (RID'IN WIT ME)
アルバム『フッドスター』のヘヴィ・チューン・サイドの幕開け。「イントロ」といってもしっかりと独立した曲で、大ヒット曲「ライト・サー」のライムも飛び出す。チンギーの生まれ故郷であるセントルイス讃歌だ。
02HANDS UP
クセのあるリズムにのって特有の軽いライムが躍動していく。全編で叫ばれる「マザーファッカー」の歯切れの良さは秀逸。このキーワードをラップするラッパーは星の数ほどいるが、リズムに食い込む鋭さはチンギーがナンバー1だ。
03CLUB GETTIN' CROWDED
「STAY FLY」の大ヒットを持つTHREE 6 MAFIAのプロデュース。がなり声のサンプリングをバックにチンギーのクリアな声が際立つ。警報音のようなシンセ・ループに飽きてしまいそうだが、多彩なライミングがしっかりと救っている。
04NIKE AURR'S & CRISPY TEE'S
タイトルの意味は「ナイキ・エアに新品のTシャツ」。ファレルやカニエ・ウェストがヨーロピアン風のファッションに変わっていっても「俺はシャツなんか着ない」とのBボーイ宣言。ヒップホップ伝統の“オレ様ラップ”は健在だ。
05BOUNCE THAT
エロティックな内容でもまったくツヤっぽくならないのがチンギー流で、この曲は彼の無機質なラップの真骨頂が楽しめる。間抜けなループといつものユーモアのかけらもないリリックで攻めてくる。マッチョだが、スヌープ・ドッグのように尖っていないのも彼ならでは。
06CADILLAC DOOR
大人しくループするギターと対照的に、自由に動きまくるベースがかっこいいパワフル・ソング。フィーチャリングのヴォーカル・グループ、ミッドウェスト・シティが、極太のコーラスで軽薄なチンギーのラップをサポートしている。
07DEM JEANS
アルバム『フッドスター』のパーティ・チューン・サイド、“STAR SIDE”の幕開け。タイトルの「ジーンズ」を脱がそうという予想どおりの内容に、「やはりチンギーだな」と頷いてしまう。おなじみのジャーメイン・デュプリ節で始まる、彼のプロデュース作品だ。
08PULLIN' ME BACK
アルバム『フッドスター』からの1stシングルで、ジャーメイン・デュプリによるキラー・チューン。美しいループ・ネタはSWVの「レイン」で、フィーチャリングのタイリースが切ないサビのフレーズとスキットでメロウに盛り上げている。
09U A FREAK (NASTY GIRL)
軽薄なパーカッションとハンドクラップが「らしい」、コリパークのプロデュース作品。彼のヒネリのあるエロ表現に、チンギーが戸惑い気味なのが印象的。ジャネット・ジャクソンの「ナスティ」の改編作品とのクレジットだが、ほとんど原形はとどめていない。
10BRAND NEW KICKS
チープなホーン・フレーズにのって、お世辞にも歌がうまいとは言えないプロデューサーのマニー・フレッシュがフックを歌うコミカル・ソング。この曲が推奨するスタイル「スニーカーにグッチのコロン」は真似しないように。
11ASS N DA AURR
踊ってもよし、チルアウトしてもよしのメロウなフロア・ソング。チンギーのエッジの効いた声が際立つ仕上がりで、フィーチャリングで参加のチンギーの従兄弟、YOUNG SPIFFYのラップも若々しくて良い味を出している。
12LET ME LUV U
ケリ・ヒルソンのヴォーカル・パートがとても良いメロディのミディアム・チューン。チンギーの無機質なラップと女性コーラスがほどよい化学反応を起こしている。難解なリズムがプンプン臭うティンバランドのプロデュース作品。
13LET'S RIDE
ティンバレスを多用したリズム・ループとフィーチャリングのファットマン・スクープが、いつもの「LET'S GO」を連発し、盛り上げ楽しませてくれる。ただ、この曲にある「クラブで泥酔した後、ドライブに行って」はいけません。
14HOW WE ROLL
みんなでループ・フレーズを歌ってしまうという、情けない曲。フィーチャリングのCHOPPERのラップは歯切れが悪く消化不良に陥るが、後半で登場する本家チンギーの安定感のあるなめらかなラップによって一件落着。
15ALL WE DO IS THIS
チンギーお得意の「タンタタ」ラップの多重録音にインテリジェンスを感じる、アルバム『フッドスター』のボーナス・トラック。アフター・ビートのシンセ・ループに突っ込み気味のラップがうまくぶつかっていて、面白いノリを生んでいる。